シーホーク騒乱 6
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不幸な生い立ちが言い分があるようですが、自分が不幸だからといって他人を不幸にするような真似はゆるしませんことよっ!」
その奇抜な衣装には見覚えがある。アルザーノ魔術学院の女子制服だ。貴族や富裕層、良家の子弟がつどう魔術の名門校の。
つまり、この少女は――。
「ブルジョワジー……」
一週間ほど前の彼だったなら、魔術師の卵にして学究の徒たる彼女を見て多少なりとも心を動かされていたことだろう。
魔術は貴族階級が身につけるべき教養のひとつとされており、そのためアルザーノ魔術学院には貴族の子弟が数多く在籍するのはたしかだ。
だが聖リリィ魔術女学院――完全に上流階級の子女御用達である全寮制お嬢様学校などとちがい、適性と能力が認められれば一般階級の人間でも入学が可能で、奨学金や特待生の制度も存在し、苦学生と呼ばれる生徒も多数存在する。
そのことを知らないカルサコフではない。ないはずなのだが――。
破壊と殺戮に酔いしれ、内に秘めていた妄執に突き動かされている彼の目には、彼女もまた粛清すべき対象にしか見えなかった。
カルサコフは鋼の巨体を揺り動かし、悠々たる足取りでウェンディを目指す。
四メトラを軽く超える巨人が一歩一歩と近づいて来る威圧感と恐怖は筆舌に尽くしがたい。
周囲の警備官らは思わず数歩後ずさる。ウェンディは半歩。それで、耐えた。高貴なる者の義務感が彼女を踏みとどめる。
「これはまたやっかいな相手だな」
ウェンディのとなり、まったく後ずさらなかった秋芳がつぶやいた。
「あのゴーレム。……中に人が載っているのをゴーレムと呼んでいいのかわからないが、魔術でいくつもの防御処置がほどこされている」
「中に人が!?」
「ああ、外からの攻撃にはビクともしないだろうなぁ。そこで俺に一計がある。ごにょごにょごにょ……」
「ふんふん…………わかりましたわ」
目前に迫ったカルサコフがウェンディを眼下に見下ろして問いかける。
「その制服、アルザーノ魔術学院のものだな」
「二学年次二組のウェンディ=ナーブレスですわ」
「ナーブレス……。公爵家の者か」
「そうですわ」
「貴族のお嬢様、おまえはなにを楽しむために生きている? 貴族のたしなみで魔術を学ぶことか? おなじ上流階級の貴公子との色恋沙汰か? いま以上に財産を築いて豪邸に住むことか? 位人臣を極めて名声を得ることか?」
「ええ、それらのことはみんな好きでしてよ」
「ふん、俗物が。おまえのような小娘の歳にしてすでに腐っている。これだから貴族は……」
カルサコフの、スターリ・ルイーツァリの腕が高く上がる。
「けれども、それら以上に好きなものがありますわ」
「それはなんだ」
「領民の――、いいえ、すべての民の笑顔を見るこ
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