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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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いは龍樹大士、龍猛とも。二世紀頃のインド仏教のバラモン(司祭)で、幼いころから天才的な学識をもっており、それを鼻にかけるところがあった。龍樹は自分と同様に才能にあふれた三人の友を持っていたが、ある日のこと「学問の道は究めた。これからは快楽に尽くそう」と思い立ち。隠形の術をもちいて王宮に入り浸っては王の寵姫らに淫らなおこないをし、子を宿す者さえ出た。
これに驚き怒った王は龍樹らを捕らえようとするが穏形術の前に手出しができない。そこで一計を案じ、砂を門に撒いてその上にできた足跡を衛兵にたどらせて三人の友人を処断した。しかし王の影に身を潜めていた龍樹だけは発見されずに一命をとりとめた。
おのれの浅慮愚行に反省した龍樹はこれを機に仏教に帰依することになったという。
つまり――。
つまりこの智羅永寿という呪術者はこともあろうか泉州一の実力者から女を寝取ったというのだ。
それもいちどに何人も。
「この痴れ者めがっ!」
使い物にならなくなった新月刀を投げ捨てた蒲寿庚の手が壁にかけてある火矛槍(マスケット銃)へとのびる。
火薬は唐の時代に発明され、宋代の前半には黒色火薬の製造も公表されていた。宋と金が戦った采石機の戦いでは霹靂砲という火薬兵器が使用されており、この時代にこのような物があっても不思議ではない。
雷が落ちたかのような轟音が鳴り響き、銃口から火箭が放たれた。至近距離からの発砲。智羅永寿の身体に風穴が開いたかと思われたのだが、銃弾は智羅永寿の身体ではなくうしろの壁に穿たれた。
「なに!?」
「おおっと、火薬の力で鉛玉を弾き飛ばすとは、なかなか考えるね。けれでもムーラダーラ・チャクラを修めたぼくにはあたらないよ」
「よ、避けたというのか……」
「ジー・ハーン(そのとおり)」
「その言葉、いまの業。天竺から来たと言ったが、
瑜伽
(
ヨーガ
)
の使い手か」
「ジー・ハーン」
ふたたびおなじ言葉を使い肯定した。
「伊達や酔狂で美姫を誘惑したわけではないよ、煩悩即菩提、菩提即煩悩。ぼくにとっては彼女たちと遊ぶことは修行のひとつさ。ぼくに美女を提供することはすなわちモンゴル軍への援助につながる。アッチャー・バーバー(おわかり)?」
「……では、その修行で得た験力でもって早々に亡宋の余灰を吹き飛ばしてこい!」
「ついでだからこの娘たちをもらってゆくよ」
「勝手にしろっ、妖術使いの手垢のついた女などいらんわ!」
「そのお言葉に甘えさせてもらうよ。――??????」
アガースラ。蒲寿庚の耳にはそう聞こえた。
その不思議な韻律をもった異邦の言葉をつぶやいた、そのとき。足元の影が膨張し、智羅永寿と籠絡されし妾たちを飲み込んだ。
蒲寿庚がおどろきの声をあげる前に影は陽炎のようにかき消える。
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