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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 5
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」「ん」

 仏顔都市崖山の劇場で『白蛇伝』の芝居を観ていた秋芳と京子は同時に顔をしかめて身じろぎをした。
 北宋の首都開封には一〇〇〇人以上も入場できる象座という劇場があったという。さすがにそこまでの規模はないが、それでも五〇〇人は入れる、ちょっとしたシネコン並の規模の劇場だ。

「痛ぇな、どうも俺の放った式がやられたみたいだ」
「奇遇ね、あたしの式もマミられちゃった」

 秋芳は頭を、京子は胸のあたりを痛そうにさする。
 離れた場所から遠隔操作で本人の人格が乗り移ったかのように振る舞う簡易式。それが討たれたのだ。
 簡易式とは式神の一種であり、式符と呼ばれる呪符を形代にして任意の姿形を生成し、それを術者が自在に操る術だ。汎式陰陽術の中でも初歩的ながら奥の深い技術で、一般の人造式よりも安易に作成でき、かつカスタマイズしやすいという自由度の高さが大きな特徴になる。
 術者の呪力のみで動くためあまりに長時間の活動にはむかず、初心者はワンアクションで使用する使い捨てのツール感覚で使うことが多いが、逆に言えば豊富な呪力さえあればいくらでも動けるので、使用者の発想や実力次第で多様な用途にもちいることができる。
 今回討たれてしまった式は、よりオリジナルに近い性能≠持たせるため、長距離からの遠隔操作をはじめ、予備呪力の蓄積による不測の事態への対応する疑似人格などなど、かなり手の込んだ式だった。
 手間ひまかけて作った模型を壊されたかのような怒りがわいてくる。

「包道乙と鄭彪、少しは使える術者が出てきたな」
「あたしのとこにも智羅永寿とかいう鼻の大きなやつが来たわよ」

 舞台上では苦難の末に結ばれた白蛇の化身である娘と人間の青年が楽しく歌い踊り、逢瀬を楽しんでいた。

「いやねぇ、蛇が出てくるお話の途中に蛇に食べられちゃうだなんて」

 『白蛇伝』。唐の時代の民間伝説が元とされ、以来多くの戯曲や小説の題材になっている伝奇作品で、人と妖怪との恋愛物語だ。深山に住む白蛇の精・白娘子(はくじょうし)が侍女の青蛇の精とともに人間に変身して西湖に観光に行く。そこで白娘子は許仙という青年に出会い、彼と相思相愛の仲になるのだが、金山寺の和尚・法海は白娘子の正体が人間ではないことを見抜き、彼女を退治しようとする――。
 このお話を元に上田秋成は『雨月物語』の中で『蛇性の淫』を書き、日本初のカラー長編アニメ映画の『白蛇伝』は、まさにこれを題材としている。
 元の話では白娘子は退治されておしまいなのだが、作り手によって自由に脚色され、ハッピーエンドで終焉をむかえる作品も多々ある。
 今回秋芳たちが観劇したのはハッピーエンドのほうだ。

「京子のほうは置き土産を残していかなかったのか?」
「ないわ。……て、アレ。ほんとうに設定し
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