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東京レイヴンズ 今昔夜話
エイリアンVS陰陽師 宇宙人がなんぼのもんじゃい! 1
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る音を楽しむ虫聴きなど、近場にある野山や水辺で闇の中の遊びに興じた。
 日本家屋というものは軒が深く、昼でも洞窟のような暗闇が生じる造りになっている。夜ともなればさらに闇は深まることだろう。善光寺の戒壇巡りなど本堂の下にある真っ暗闇の回廊を手探りで歩く、一種のアトラクションであった。
 また肝試しの歴史も長く、平安時代に書かれた『大鏡』のなかに藤原道長が肝試しをする話がある。夜の闇の中でやる祭りも少なくなかった。
 九州有明の不知火や江戸の王子稲荷の狐火といった怪火見物も人気があったそうだ。
 照明のとぼしかった時代の人々は現代とは比較にならないほど暗い中で楽しんでいた。
 西洋では可能な限り街や家々の中を明るくし、闇を消すことに執着したが、日本ではむしろ闇を受け入れ、それを利用して楽しんでいた。
 日本の温順で温暖な気候は大気を湿らせ、月や星の光をおぼろげでやわらくする。闇もまたやわらかくなる。温暖だから闇の中でものんびり快適にすごすことができる。
 その温暖温潤な気候は木々を育て、紙の文化をはぐくんだ。行燈や提灯などの日本の照明器具は光を和紙で包んで闇をやわらかく照らす風情のあるもので、日本の闇がやわらかくやさしいからこそ、闇に親しむことができた。
 鬼を縛り、魔を裂き、多くの妖を従える。闇に君臨する陰陽師ならばこそ、闇遊びを楽しむべきでは――。
 そんなことを話しているうちに、雑木林をぬけ、ひらけた場所に出た。
 ふたたび満天の煌めきに彩られた夜空の天蓋がふたりの目に映る。

「見て見て、春虎。夏の大三角の東にいるか座が見えますよ!」
「う〜ん、どう見てもイルカには見えない」
「アリオンという音楽家を助けたイルカがいるか座のイルカになったというお話が――」

 いて座、さそり座、へびつかい座――。有名な夏の星座を見つけては星座にまつわるエピソードに花を咲かせる。
 するとはるか上空を小さな光点がすべるように流れた。

「あ、流れ星――」

 夏目が指差したときにはもう光線は消えてしまっていた。

「ああん、流れ星が消えないあいだに願いごとを三回唱えるとかなうのにぃ」
「そりゃ迷信だろ」
「迷信も立派な乙種です」
「……夏目はどんな願いごとをするつもりだったんだ?」
「春虎が立派な陰陽師になれますように!」
「おいおい、またそれかよ」

 苦笑。つい去年の夏に夏目ではない夏目≠ェ同様の願掛けをして絵馬を奉納していたのを思い出した。

「あ、でもその前に無事に卒業できますように。それと千年堂の最中が食べたい。倉橋さんが元気になりますように。冬児が鬼に飲まれませんように。鈴鹿が先輩を敬うように。天馬が――」
「ちょ、まだあるのか? あんがい欲ばりなんだな」
「それと――」
「それと?」

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