シーホーク騒乱 5
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もしも折れず曲がらず刃毀れもしない剣があったとしたら、一槍も不要。その剣は無敵。
「哈アァッ!」
剣光が迸るたびに動く鎧たちはその数を減らしていく。
「す、すごいじゃないか」
警備官たちは我を忘れて秋芳の奮戦ぶりに目を奪われていた。
「あ、またあの奇妙な動きをしだしたぞ!」
単騎とはいえ手強し。
槍の指揮官の声なき号令に応えてリビングアーマーたちが円陣を組み秋芳を二重三重に取り囲む。
そして車輪のように陣を回転させ、一隊が攻撃するとすぐにその部隊が下がり、また別の部隊が攻める。循環式の陣形を組み立てた。
(きたな! ……これはまるで講談にある車懸りの陣。その変形じゃないか!)
車懸りの陣。
上杉謙信が川中島の合戦で使用したとされる布陣。自軍を円形に配置し、車輪のように陣を回転させながら一陣、二陣、三陣と入れ替わり、攻撃の手を休まずに次々と新手を繰り出す波状攻撃。その起源は古くインド神話にまでさかのぼり、薬師如来を守護する十二神将がもちいたとされる。
中央に本陣を配置し外側に対して攻撃を繰り返すという通説にある車懸りの陣とはちがい、これは敵を囲み外から内へと攻めてくる。
(この配置、たとえ外から味方が救援に駆けつけたとしても、軍をふた手にわけて対応可能だ。外側の敵には従来の車懸りの陣の動きで応戦すればいい)
内にいる者は完全に孤立し、敵に取り囲まれているというわけである。
さらに右へ左へと目まぐるしく動き回ることにより、閉じ込めた相手を眩惑させる効果もあった。
剣陣とは奇門遁甲より生まれた術で、目くらましによる戦法である。
一連の剣法を数人が一体となって操り、陣中の敵に対し隙を与えず攻撃をくわえ、みずからは消耗することがない。
精巧な陣を組めば少数で大勢の軍にも対抗できる。
どうすれば破れるのか?
どんな剣法にも長所とともに必ず弱点がある。
剣陣もまた同様。
一陣、二陣、三陣、一陣、二陣、三陣、一陣、二陣、三陣――。
間断なく攻撃をしかけては離脱し、各々が連続して打ちかかってくるのをしのぎつつ、秋芳は心を落ち着けて相手の動きに集中する。
妙に守りの薄い箇所がある。わずかだが動きが遅く、鈍い。
(……だが、ちがう。あれは誘いだ。あえて守りの薄い場所を作り、相手を誘導する。囲師必闕のような逃げ道ではない。あそこは死門、真の生門は――)
陣の形を十分に見極めて一気に弱点を打つのだ。
気の流れを見る。
(兵に常勢なく、水に常形なし。よく敵により変化して勝をとるもの、これを神という……。そこだっ!)
もっとも堅固にして鋭敏な一角、そここそが急所。弱点だからこそ守りを厚くし、攻めるに難くする。
堅陣
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