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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲乃夢 4
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でいたらしい。えげつのないことである。
 夜中に警備中の兵士が不審な灯を発見したので近づいてみるが、むこうも動いているのかなかなか距離がせばまらない。いよいよあやしいと早足で近づき、灯の目前にせまったとたんに灯が消えた。おかしなこともあるものだと落ち着いてあたりを見回すと、なんと自分は崖の一歩手前に立っているではないか! あやうく落ちる寸前だったと冷や汗をかいたその耳元に「落ちちゃえばよかったのに……」と、女の恨めしげな声が聞こえ、いっそう肝を冷やした。
 またべつの兵士は若い女がしゃがみこんで泣いているのを見かけた。陣中に若い女人とは面妖なと声をかけると、振り向いた女の顔にはなんと目も鼻も口もついていないのっぺらぼう。驚いた兵士は無我夢中で逃げ出して。すると同僚は「こんな顔かい」と兵士のほうへ振り向くと同僚ものっぺらぼうで驚いた兵士は気を失った。
 ある晩に見知らぬ士官があらわれてみんなに酒食を振る舞い宴会になった。一晩中騒いで眠りこけて朝起きてみれば酒だと思って飲んでいたのは馬の小便、食べものは馬糞だった。
 などなどなど……。
 一兵卒だけでなく将官たちも奇怪な目に遭った。
 ある日の晩、軍議を終えた李恒が自分の幕舎にもどり夕餉を食べようとしたときのことだ。酒のそそがれた爵(鼎型の酒器)を口にはこんだとき、くちびるに痛みが走った。

「?疼(あ痛)ッ!」
 見れば手にした爵の縁にびっしりと歯が生えている。李垣の眼前で縁はぐにゃりと歪んだ。笑ったのだ。
哇哦(なんだこりゃ)!?」
 おどろいて思わずかみついた爵をほうり投げる。すると卓上の食器がいっせいに震え、哄笑をあげた。

ギャハハハハハハ、ガチャガチャ、ワハハハハハ、ガチャガチャ。

「おのれ、妖怪か!」

 騒ぎ立てる酒壷を両断しようと剣を振るうと、卓に鋼の刃が深く食い込む。

「わしに剣を刺すこの不作法者は何者だ」

 卓から声がもれる。

「李垣という裏切り者だ」

 耳のすぐ近くから声がした。なんと李垣が着ていた袍までもがしゃべりだしたのだ。
「攻め込んだ先々で人を殺すものだから、ほうら、こんなに真っ赤になってしまった」

 白い袍がみるみる血に濡れたように赤く染まる。
 李垣はタングート人で西夏の王族の出身であり、西夏は元によって滅亡させられた。それでも李垣はフビライによる世界帝国建設の大義をひたすら信じ、各地を転戦していた。
そのことを揶揄していると理解すると、一気に激昂した。

「激氣(クソったれ)!」

 赤くなった袍を脱ぎ捨てて卓を蹴り飛ばすと、あたりに食器と中身がぶちまかれた。

「おお、もったいない。食べ物を粗末にするのはよくないな」

 鶏の姿煮が首をもたげてみずからの肉をついばみ、「好吃(美味い)
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