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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲乃夢 4
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 この時代の中国料理はあまり油っぽくなく蒸したり炙ったりといった調理法が多かった。

「中華料理が油っこくなるのは元の時代になってモンゴル料理の影響を受けてからだといわれる。味つけはあっさりめだが現代の中華料理に使われる食材はすでに宋の時代に出尽くされたというから、つくづく宋代ってのは文化の隆盛した時代だったんだなぁ」
「平和で豊かじゃなくちゃ料理に凝る余裕なんて出てこないものね」
「ああ、天下人の豊臣秀吉なんかより江戸時代の庶民のほうがよっぽどバリエーションに富んだ食生活をおくってるもんな」

 食事を終えて秋芳は竹葉青(薬酒の一種)を、京子はのちに廬山雲霧茶と呼ばれる緑茶を飲んで雑談に興じる。

「ねぇ、いま気づいたんだけど、お皿も茶碗も陶器じゃないわよね。これって……」
「銀でできている」
「銀食器だなんて贅沢ね、庶民のお店なのに」
「たんに贅を凝らすだけじゃないんだ」

 宋の時代の一流の料理屋では銀の食器を使うことが多かった。銀製の食器ならば落としても割れないし、錆びたり腐ったりもしない。また銀は毒や腐敗物に反応して変色する性質をもっているので、銀の食器を使っていることは『うちの料理は安全ですよ』というアピールにもなる。
 火事などに遭っても銀の食器は溶けたり変形したりするが、そうなってもふたたびまとめて熔かして作り直せばすむ。
 戦争が起きて避難するときはつぶしてたいらにしたものを重ねてはこび、安全な場所で作り直せばいい。もともと銀だからそのまま貨幣のかわりにもなり財産としての価値もある。
 割れたらそれでおしまいの陶器などより実用的なのだ。
 食後に出された甘点心は千層?(チェンツォンカオ)。小麦粉を練って発酵させた生地を何層にも重ねてパイのような層を作り、あいだに果物や餡をはさんだ蒸し菓子だった。
 繊細な甘味を堪能しつつ窓の外を見ると雑多な町並みが見えた。ここからは元軍の様子は見えないが、この活気ぶりを見てぜひとも戦意をくじいてもらいたい。

「豊臣秀吉は小田原攻めのさい武力で押し潰す強行策をしなかった。それよりも北条方の士気を低下させ内部崩壊させていく策をした。そのために小田原城外に遊郭まで作って城の中と外に天国と地獄を演出した」
「こんかいは籠城するがわが天国になるわけね。――宿霊元」

 手にした銀器をもてあそんでいた京子がおもむろに印を結んで呪を唱えると、銀の器から細長い手足が生えてジタバタとうごめく。

「なんだいきなり、いまさら宇治拾遺物語の実践か?」

 式神とは本来二種類、密教でいう護法童子や安倍晴明の十二神将のように鬼神や精霊を使役するものと紙や木などを呪力によって生き物のようにあやつるものとがある。このあたりは土御門夜光以後の汎式・帝式における使役式と人造式と大差
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