夜虎、翔ける! 4
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平坂の服の乱れを正してその場を去ろうとうながす。
「ッメェ、女だからって甘く見てんじゃねぇぞ!」
激昂したひとりの女子が蹴りを放つ。スリッパの裏のような顔をしたそいつはケンカ慣れしているようで、なかなか様になっている。だがそれは空を切り、なぜかとなりにいた女子の腰に命中した。
「あイタっ。なにすんのさっ!?」
「え? あ、ご、ごめん。あ、あんだよコンチクショー!」
ふたたびケンカキックの体勢に入るスリ裏女子に間髪入れず眼帯男子が問いかける。
「あんた、名前は?」
「んあ?」
「名前はなんていうんだ」
「寺島だよ。テメェこのやろ、ふざけんなコラ、この名前を忘れられなくしてやっぞコラ、思い出すたびにビクブルして小便漏らすぞコラ」
男の子の眼帯におおわれていない片方の視線がすっと上り、まっすぐに寺島を見すえる。
「それは名字だな、下の名前は」
「久子だ」
「ひさこ……」
「そうだよ、あたしの名前は久子だよ、文句あっか」
「ひさこ」
「なんだよ」
寺島久子は反射的に眼帯男子の目を見返した。すると強張っていた久子の肩からすとんと力が抜け落ちて、目の光が消え失せて呆けたような表情となる。
「ひさこ、さがれ」
「う、うぃーす」
寺島久子はふらふらと後退した。
「「「へ?」」」
仲間の女子たちはなにが起きたのか理解できなかった。寺島は熱くなるとわれを忘れておとなの男性にすら突っかかり、暴力をふるうタイプなのだ。それが見ず知らずの少年の言いなりになる。ありえないことだった。
「ひどいな、靴の跡が残ってる。こりゃクリーニング代はおっさんからだけじゃなくてこの子たちからも徴収する必要があるな。――おまえら、なんて名前だ」
「う、うるさい」
「なんて名前だ?」
「岩崎……、あすか……」
「おまえは」
「藤田……、祐美……」
「おまえは――」
女子たちは戸惑いつつも少年の眼から視線をはずすこともできず、問いかけに答えていく。
「久子、あすか、祐美。財布の中身を全部出せ」
「…………」
困惑の表情を浮かべつつ、あやつり人形のようなぎこちない動きでのろのろと所持金をさし出す。
「久子、あすか、祐美。この場でスクワット三十回、五セットしてろ」
「「「う、うぃーす」」」
首がおかしな方向にまがった中年男性のまわりで三人の女子がヒンズースクワットをしはじめる。そんな珍奇な光景を背に、少年は平坂の肩をやさしく抱いてその場をあとにした。
かすかに花の香りが匂う春先の風が心地よい。
うす暗い地下倉庫とは別世界の明るい住宅街を見知らぬ少年とつれだって歩く平坂はまだ自分の身になにが起きたのかを理解できなかった。
(あた
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