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東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 4
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―。
 平坂は孤独と絶望のなかでずっとまった。
 中学の三年間、アニメに出てくるようなかっこいい男の子が空から降ってきて、自分をみじめな境遇から救ってくれるのを、ずっとまった。
 赤錆びた校舎の階段で、なまり色の雲を映す窓の前で、放課後の校庭で雨に打たれ、無音の叫びをあげてまった。
 明日は何かが変わり、この絡みつく鎖を解き放ってくれるのだと信じてずっとまった。
 まって、まって、まって――。
 立花学園入学。
 堀川夜虎というかっこいい男の子が、空から降ってきた。
 比喩ではない、ほんとうに空から降ってきたのだ! 





 進学先の高校でもまわりの面子はほとんど変わらず、またいじめが続くのかと暗澹としていた入学式の日。案の定、新しいクラスにも加害者たちが数人いてさっそくからんできた。
 それだけではない、路地裏に呼び出されてサラリーマンふうの中年男性のお相手を強要された。

「いいのかい、彼女いやがってるんじゃないの?」

 遠慮がちな言葉とは裏腹に無遠慮で舐めるような中年男の視線に、平坂の全身に虫酸が走る。

「へーき、へーき、この子だれにでもこうだから」
「じゃあね平坂。いい子にしてたら、あたしらよりも多くお小遣もらえるかもよ〜」

 仲介料をせしめた女子たちは上機嫌で平坂を置いて去って行った。
 嫌悪と恐怖で生まれたての小鹿のように震える平坂に好色な中年男がにじり寄る。

「こわがらなくてもいいんだよ。なにも本番しようってわけじゃないんだ。もちろん君がその気ならお兄さんはオールOKなんだけどね、ぐひひ」

 お世辞にも『お兄さん』とは言えない年齢の男は平坂の首筋に顔を近づけて獣のように匂いを嗅いだ。

「あー、良い匂い! 髪の毛もすっごい綺麗な黒髪だねぇ、一度も染めたことないとか。さっきの子たちみたいに安物の香水ふりまいてケバケバしい金髪に染めるよりも断然良いよ。○○学園の制服も合ってるし、もう最高! それじゃあさっそくホテル行こうか」
「いや……」
「あ?」
「いや、あたし、いやっ」
「いやじゃないよ〜、ちょっとタッチするだけだから。君は寝てるだけでいいんだよ。かんたんでしょ。気持ち良くしてあげるからさ〜」
「いやっ」

 震える脚を無理やり動かして男から逃げる。薄暗い路地裏から人の多い繁華街に出ようとした、その時。複数の影が行く手をさえぎった。

「逃げんなよ、眼鏡!」

 下腹に鈍い痛みが走る。つい今しがた平坂を置き去りにした女子のひとりが膝蹴りを入れたのだ。

「ボッチのてめぇをせっかくあたしらの仲間に入れてやろうってのに、なに勝手こいてんだ。チョーシくれてんじゃねぇぞブス!」

 乾いた音が響き、口の中に金臭さが広がる。平手打ちを受けたのだ。

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