夜虎、翔ける! 4
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を脱がされたり、いかがわしいお店でバイトさせられて見ず知らずのオヤジの汚いものを見せつけられた。なんども自殺を考えたわ。駅のホームで電車をまっていると、ついつい踏み出したくなるの)
その言葉にいつわりはないであろう。
憎・恨・怒・忌・呪・ 滅・殺・怨――。ありとあらゆる負の感情とともに平坂が受けた過酷な体験が瘴気をとおし、映像となって伝わってくる。
春虎は悲しくなった。空から爆弾がふってこない。赤紙一枚で若者が徴兵されない平和で豊かな国にも、このような陰惨で卑劣な虐待行為が存在していることに。
(あたしのなかの、もうひとりのあたしが、あたしをゆるさない。あたしがゆるしたあいつらをゆるさないの! 人にさんざん酷いことしたやつらが、なんの罰も受けずに学校を卒業して、社会に出て、なに食わない顔で人生を楽しむ。こんなことがゆるされるはずないわ!)
轟ッ!
爆発的に膨張した瘴気が不動金縛りを引きちぎろうと猛り狂う。
(あたしは強い! あたしは自由! だれにも負けない! だれにも邪魔はさせない! この力で復讐してやる! あたしをいじめたやつら全員殺してやる!)
清冽な霊気は消え失せ、もはや瘴気の塊と化した竜が呪詛の叫びをあげる。
春虎は平坂の中に鬼を見た。
タイプ・オーガなどに分類される、こんにちの汎式陰陽術における鬼ではない、本来の意味での鬼だ。
鬼。
漢字の『鬼』は死霊をあらわす語だが、日本における『おに』は姿が見えないことを意味する『陰』に由来するといわれる。形をなさない感覚的な存在や力。もののけの『もの』と同義だ。
またあるいは異形そのもの、神と対をなす悪しきもの、死を招く災い、辺境に住む異邦の人々も鬼と称された。
象徴的な例としては斉明天皇が崩御したさい、朝倉山の上に大笠をかぶった鬼が現れ、葬儀の様子をながめていたと日本書紀にある。
広義では正体不明の妖しい存在を人々は鬼と呼び、狭義では人を喰う異形のものを鬼という。角を生やし、怪力をもち、悪行におよぶ無慈悲で獰猛な化け物。その正体は人や物の霊であったり零落した古き神であったりさまざまだが、生きながらにして鬼になるものもいる。
おのれ自身の負の感情に飲み込まれて理性を手離し、人が人でなくなる。
人の心には誰しも陽と陰がある。風の流れや川のせせらぎなど、この世界を形造る森羅万象にも同じように陽と陰がある。その陰に見入られた者は外道に堕ちる。人ならざる、異形の存在、鬼へと変生する。
紀州道成寺にまつわる安珍と清姫の伝説がまさにそうだ。
情念につき動かされ、人は鬼にも蛇にもなる。現在では霊的存在が憑依した者を生成りというが、生成りとは本来鬼に成りかけの状態を指す言葉だ。角が生え牙がのび、怪力や異能の力を得るが、まだ
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