暁 〜小説投稿サイト〜
東京レイヴンズ 今昔夜話
夜虎、翔ける! 4
[14/16]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
 春虎は平坂の中にある鬱屈した思いを払拭するために現実という悪夢から解き放ち、良き夢を見せることで悪しき心を消滅させようとしたのだ。

「それに非時の実なら心あたりがある」
「ほう」
「むかしの知り合いが苗木をもっているのを思い出した。ひょっとしたら実らせているかもしれない」
「そうか、なら次の目的地は決まっているな」
「ああ」
「……春虎様、僭越ながら飛車丸めには疑問に思うところがあります」
「うん?」
「平坂橘花の始末ですが、これでよろしかったのでしょうか」
「おれはそう思う」
「夢の中で慰撫されたとして」

 それまで黙って自分の携帯端末をいじっていた早乙女が口をひらく。

「夢の中で癒されたとして、夢から覚めた後はどうするつもり? トラウマを克服したのは良いけど、彼女には見鬼の、呪術の才が芽生えてしまったわ。心に暗い傷を負ったことのある呪術師の卵を放置しておいて、第二第三の多嶋地州になったりしないかしら」
「そのあたりは考えてあります。――夢の終わりで彼女に誘いをかけてありますから」
「誘い?」
「ええ、陰陽塾への入塾をね」
「まぁ」
「陰陽塾で正規の教育を受ければ、今後歪んだり暴走したりはしないはずです」
「それは妙案ね。彼女、知識だけならいますぐ入塾できるくらいだったもの。たりなかった見鬼も身につけたことだし。あとは彼女自身の意志だけね」
「ま、大友先生や倉橋塾長のいない、いまの陰陽塾はちょっともの足りないって気がするけどな。それでも天馬や京子みたいな良い先輩がいるし、良い方向にみちびいてくれるだろう」

 現在の塾長は倉橋京子の祖母である美代に代わって陰陽庁から天下った人物だ。春虎たちとは敵対する立場にある倉橋源司のシンパらしいが、主義主張に賛同しているわけではない。ごく平凡で無害な中間管理職。というのが春虎の見解だった。

「でも最近になってちょっと変わり種の講師が赴任したみたいよ」
「へぇ、どんな人物なんです」
「こういう人」

 手にしたケイタイを春虎にわたす。『月刊陰陽師』のウェブ版が表示されており、新人講師のインタビューが載せられていた。
 僧侶のように頭を剃った青年で、賀茂の一族だそうだ。

「……ふぅん賀茂氏の末裔ね。なんか胡散臭いな」

 日本を代表する陰陽道の二大氏族といえば安倍晴明で有名な安倍氏と、晴明の師匠にあたる賀茂忠行、保憲親子など、幾多の陰陽師を輩出した賀茂氏だ。前者がのちに土御門を名乗り後者は勘解由小路と称することになる。
 しかし勘解由小路家は室町時代末期には没落し、江戸時代に入る前には断絶している。
 そして断絶した勘解由小路家に代わって賀茂氏宗家となった庶流に幸徳井(かでい)家というのがあるのだが、その幸徳井家とは関係ないらしい。あくま
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ