夜虎、翔ける! 3
[4/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
かれ、かたい音をたてた。
ゆるく弧をえがいた親指ほどの大きさで先端がとがっている。
牙だ。
動物のものと思われる牙をまいたのだ。
「霊泉より来たりて実れ、急々如律令」
地州が呪を唱えると樹木が生えるように白い牙が成長していった。骨と骨がきしみ合うような音を立てて身をゆらしくねらせながら巨大化し、人間の骸骨のような姿となっていく。手には骨でできた剣と盾をにぎり、やはり骨の鎧で完全武装した異形の兵士たちが生まれた。
「蒔かれた者≠ヌもよ、こいつらを殺せ」
地州の命令にしたがい蒔かれた者≠ニ呼ばれた異形の兵士たちが剣刃をひらめかせる。
「まさか、本物の竜牙兵? だとしたら、ずいぶんと変わった式神をもっているのね」
「知っているのですか早乙女?」
「ええ、竜の牙を触媒にした霊的存在の召喚・使役系の呪術で、その起源ははるかギリシアにまでさかのぼるといわれるわ」
カドモスというギリシア神話に登場する人物がいる。彼は牡牛を女神アテナにささげるために家来を泉に水をくませに行かせたのだが、そこに棲んでいた竜に家来たちが殺された。これに怒ったカドモスはこの竜を退治する。
そのあとあらわれたアテナから倒した竜の牙を大地に蒔くよう言われ、実行したところ、大地から武装した男たちがあらわれ、カドモスの忠実な従者になったという。この男たちは蒔かれた者と呼ばれた。
「そうだ。もっともこいつらは本物の竜ではなく齢五〇〇年の大蛇の牙で作った代用品ゆえ少々質は落ちるが、おまえたちの相手にはなるだろう。式には式を、というやつだ。――風よ、彼方へとはこべ。急々如律令」
糸をのばした地州の身体がふわりと宙に浮いた。
遊糸飛行。バルーニングという現象がある。ある種の蜘蛛は吐き出した糸を風や上昇気流に乗せて空を飛び、遠隔の地にまで生息分布を広げる。遠く洋上の島にたどり着く蜘蛛もまれではなく、高度数千メートルという高いところを飛んでいる姿も観察されているのだという。またある学者の研究では二〇〇〇キロもの距離を飛んだ蜘蛛もいたそうだ。
地州もそれと似たような原理で空を飛んだ。
「――いったいどのような術を使い、こうも見事に消火したのか。ぜひともご教授願いたい」
「おまえこそ、どうやってこれだけの広さの場所にいっせいに火の手を上げさせたんだ。人の姿はなかったぞ」
「米軍がベトナムの村々を焼き尽くすのに使った化学発火剤を使った。ただ置いておくだけで時間が経てば自然に発火する。しかも多少の水をかけてもよけいに燃え広がるというすぐれものだ」
「そんなものどこから……。いや答えなくていい。知りたくもない」
「では最初の質問に答えてもらいたい。いかなる秘術であの大
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ