アナタと寄り添うミライ
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緒に落ちた書類を拾っていく。
今までほぼ完ぺきに仕事をこなしてきた花丸さんでも、こういったミスをするのだと思うと、なんだかそれが微笑ましい。思わず口元がニヤケてしまう。
そんな気持ちになるのは不純なことだと思い、私は手元をよく見ずに書類を拾おうとした。
それがいけなかった。
ピトッ。
手に温かいなにかが触れる。視線を向けると、私と花丸さんの手が触れあっていた。
「あっ……ご、ごめんなさいずら」
「花丸さん」
慌てて引っ込めようとする花丸さんの手を、私はさっきまで触れていた手で思わず掴んでいた。
自分でもなぜそうしたのかわからない。
花丸さんの手の温もりを、もっと感じていたかったのかもしれない。
「ダイヤさん……?」
怪訝そうな目で花丸さんがわたしを見つめる。吸い込まれそうな琥珀色の瞳は、手を掴まれたことによる単純な疑問を映し出していた。
そんな花丸さんをよそに、私は彼女をジッと観察する。
艶やかな栗色の髪。
くりっとした可愛らしい睫毛。
健康的できめ細やかな白い肌。
ほんの少し朱に染まった頬。
ぷりっとして柔らかそうな桜色の唇。
窓から差し込む夕日が私たちを影にして、彼女の輪郭を曖昧にする。
そんな中その存在を強く主張する柔らかそうな唇に、私は吸い込まれそうになって。
顔を近づけていくと、その唇がだんだん大きくなっていく。
気がつけば私は花丸さんの唇を、私のそれで塞いでいた。
数秒、ほんの数秒間触れあった唇。
それを離した瞬間、花丸さんの顔が目に飛び込んできた。
驚いた表情、朱に染まった頬、潤んだ瞳。
そんな花丸さんの顔を見て、私は自分がなにをしでかしたのか、ようやく気づいた。
「その……ごめんなさい」
ポツリと私の口をついて出た言葉は、謝罪だった。
無意識とはいえ、花丸さんの唇を奪ってしまった罪悪感。それから逃れるように、私は謝罪の言葉を口にした。
「……っ!!」
「花丸さんっ!!」
花丸さんは立ち上がり、踵を返して生徒会室から走って出ていく。
その背中に声をかけたが、花丸さんは振りかえることなく私の前から姿を消した。
それ以来、花丸さんが生徒会室を訪れる日はやって来なかった。
それは私が生徒会長の任期を終えるまで、ずっとだった。
花丸さんとキスをして、彼女が逃げるように去って行ったあの日から一週間が経った。
結局あの出来事があって以来、花丸さんは生徒会室にやって来ず、私は任期が終わるまでひとりで雑務をすることになった。
花丸さんがいなくなったことで作業効率は極端に落ち込んだ。ひとりで雑務をしていると、花丸さんの存在がどれだけ有り難かったかよくわかる。
私
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