桜の音色に包まれて
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…」
だけど、私の答えを聞いた梨子ちゃんは、どこか辛そうな表情を浮かべて私から視線を逸らした。
「……そうだよね! 高校生の頃とは違って、もう十年も経ってるんだし! 曜ちゃんにも好きなひとぐらいできるよね……!」
なぜか取り繕うように言っては、梨子ちゃんは笑ってみせた。ぎこちない、明らかに無理している笑顔。
「ごめんね、曜ちゃん……」
そして、謝る。どうして梨子ちゃんが謝る必要があるのだろうか。
「私ね、高校生の頃から、ずっと曜ちゃんのこと好きだったの。だけど伝える勇気がなくて、そのまま卒業しちゃって」
待って、もしかしてこれ、梨子ちゃん勘違いしてるんじゃ……。
「でも、曜ちゃんがバーに来てくれて、また曜ちゃんのこと好きになっちゃったの。だから今、想いだけでも伝えられて……良かった」
――良くないよ。
勘違いしたまま終わらせるなんて、絶対に良くない。
「梨子ちゃんだよ」
「えっ」
梨子ちゃんもずっと、私と同じだったんだ。
高校時代、お互いに恋をして。でも想いは伝えられなくて。バーで再会して、また恋をして。
今、勇気を振り絞って、想いを伝えて。
「私もずっと、梨子ちゃんのこと好きだった。高校生のときから、今もずっと」
私たちはずっと、同じ想いをしてきたのかもしれない。
すれ違って、離れて。
近づいて、またすれ違って。
だけど最後には、想いを伝え合って。
「梨子ちゃん、私と付き合ってください」
「……はい」
必要なのは、ほんの少しの勇気だけだった。それだけで、私たちは結ばれたのだから。
お互いに想いを伝え合って、見事結ばれた私と梨子ちゃん。だけど今、私の隣に梨子ちゃんはいない。
――今の気持ちをピアノで奏でたい。曜ちゃんに聞いてもらいたいの。
そう言った梨子ちゃんは、マスターにピアノを弾かせてもらえるよう頼んだ。梨子ちゃんの頼みは快諾され、今梨子ちゃんは裏でドレスに着替えているのだとか。
バーカウンターに座って梨子ちゃんの登場を待つ。するとほどなくして、ドレスに身を包んだ梨子ちゃんが現れた。今日はいつもの暖色系のドレスではなく、淡い水色のドレス姿だった。
ピアノの前で梨子ちゃんが客に一礼すると、温かい拍手がバーに響きわたる。
そして梨子ちゃんはピアノの前に座り、曲を演奏し始めた。
その音色は、淡い桜色。
目を閉じて音を聴く。目に浮かぶ風景は、満開の桜と、広大な海だった。岸に打ちつける波の音に乗って、桜の花びらが運ばれてくる。
まるで私への愛を奏でるようなその音に、少し恥ずかしさを覚えながらも、私はこの上ない
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