桜の音色に包まれて
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梨子ちゃんは漫画に集中している様子で、視線を一切漫画から逸らさない。私の視線は漫画と梨子ちゃんを行ったり来たりしているというのに。
そんなふうに時々梨子ちゃんを見ていると、ふと視線を上げた梨子ちゃんとバッチリ目が合ってしまった。
「どうしたの、曜ちゃん?」
「ううん。なんでもない」
「そう?」
梨子ちゃんは再び視線を漫画に落とした。かと思いきや、すぐにまた視線を上げて、私の顔を見つめてはニコリと微笑んだ。
「こうして曜ちゃんと過ごしてると、なんだか高校生の頃を思い出すね」
「そ…だね……」
まさか自分がさっき思っていたことを梨子ちゃんに言われて、顔から火が出そうになるほどの恥ずかしさに襲われた。
――どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。
梨子ちゃんも私と同じことを考えていたというその事実が、たまらなく嬉しい。このまま嬉しさで死んでしまいそうだ。
「どうしたの曜ちゃん? 顔赤いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫であります……」
「本当かな……ちょっと失礼」
「ふわぁっ!?」
梨子ちゃんの手が私の額に置かれて、驚きのあまりヘンな声を出してしまう。急にそんなことをされて、私の体温はますます上がる一方だ。
「うーん……ちょっと熱っぽいかも?」
「だ、大丈夫だから! 本当、ほらこのとーり!」
私は腕をせわしなく動かして、梨子ちゃんに元気だとアピールする。このまま熱があるからと家に帰らされるのだけは避けたかった。今は梨子ちゃんとの時間を、大切にしたい。
「そ、そうだ! このあと梨子ちゃんが働いてるピアノバーに行こうよ! 梨子ちゃんも従業員じゃなくて、お客さんとして。ねっ!」
「う、うん。私は構わないけど……曜ちゃん本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ! じゃあ決まりね、楽しみだなー!」
もっと梨子ちゃんと一緒にいたい。そして私に熱はないんだと梨子ちゃんに分からせたい。そんな思いでピアノバーに行こうと提案してみたけど、思ったより梨子ちゃんに心配されているみたいだ。
熱がないと言えば、嘘になるのかもしれない。風邪をひいたとき等の病気に使われる熱は全くない。だけど別の意味での熱はある。
それは梨子ちゃんにお熱だと、恋をしているという意味で。
恋を病だとするならば、私は現在進行形で病気にかかっている。だとするなら、私は大丈夫ではないのだろう。
夜になって、私は梨子ちゃんとピアノバーにやって来た。
私たちはバーカウンターのいつもの場所に並んで座り、それぞれマスターにカクテルを注文した。
梨子ちゃんと再会してから何度も訪れているピアノバーだけど、今日は少しいつもと違う雰囲気だった。
まず、梨子ちゃんの演奏するピアノが流
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