桜の音色に包まれて
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私は千歌ちゃんに影響されて漫画をよく読むほうだけど、梨子ちゃんが漫画を読むというイメージが全く湧いてこない。
梨子ちゃんといえばピアノというイメージが強すぎるのだろうか。私にとって梨子ちゃんが漫画を読むというのはかなり衝撃だった。
「せっかくだし、一緒に買い物しようよ」
「うん、いいよ」
特に予定のない休日だったけれど、こうして梨子ちゃんと巡り会えたことは幸運だ。私たちは一緒に本屋の漫画コーナーへと向かう。
目立つところに平積みされていた漫画を取ろうと手を伸ばす。すると、私の横からも白くてか細い手が伸びてきた。
「あれ? もしかして曜ちゃんもこの漫画買いに来たの?」
「うん。もしかして梨子ちゃんも?」
「うん。すごいね私たち、同じものを買いに来たなんて」
本当に、なんという偶然だろうか。まるで最初にピアノバーを訪れたときに梨子ちゃんと再会したときのような、そんな運命じみたなにかを感じずにはいられない。
同じ時間に同じ場所で、同じものを買いにきただなんて、まるで神様がそうさせたかのような、そんな見えない力でもあるんじゃないかって思ってしまう。
そんなことを考えている自分が、なんだか善子ちゃんみたいだなぁと、ふと高校時代の中二病の後輩を思い出す。元気にしているだろうか。
私と梨子ちゃんは同じ漫画を手に取り、レジに行って購入を済ませる。漫画を購入した梨子ちゃんちゃんの表情は、どこか満足気だった。
「まさか曜ちゃんも同じ漫画を読んでるなんて、思いもしなかったなぁ」
「私もだよ。梨子ちゃんって漫画読むイメージ全然なかったから、びっくりした」
「そうかな? 私、漫画とかすごく好きなの。あまり表には出さなかったけど、高校生の頃からずっとそうだよ」
「そうだったんだ」
まさか高校生の頃から漫画が好きだったなんて、今初めて知らされた事実だった。
梨子ちゃんに恋をしていた私にも、彼女の知らないところがあったんだと思うと、今日そのことを知れたのが、なんだか嬉しい。
好きなひとの知らなかった一面を知ることは、案外楽しいものだと知った。
それから、梨子ちゃんと近場のカフェに寄ることになった。今はお互いに注文したドリンクを時々口にしながら、黙々と先ほど買った漫画を読み進めている。
もともと家に帰ってから読むつもりだったけど、梨子ちゃんからカフェでお茶しながら漫画を読もうと提案されて、私はそれに乗った。
今、私たちはカフェで同じ席に座り、同じ漫画を読み、同じ時間を過ごしている。
まるで高校生の頃に戻ったみたいで、ほんの少し?が緩んでしまう。漫画に集中しようと視線を落としても、対面に座っている梨子ちゃんが気になって内容が頭に入ってこない。
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