桜の音色に包まれて
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隣り合って座り、カクテルを嗜んでいる。
グラスを口に運ぶ仕草は妙にさまになっていて、高校生だった頃とはやっぱり変わっていて、あのときからの時間の経過というものをまざまざと痛感させられる。
「そういう曜ちゃんは、どうしてここに?」
私がしたものと同じ問いが返ってくる。梨子ちゃんはいたずらに成功したような笑みを浮かべていて、彼女のそういう顔を見るのも久しぶりだなぁと、懐かしい気持ちになる。
「会社の上司との付き合いで、たまたま偶然。私と梨子ちゃんが知り合いだと知って、今は席を外してるけど」
「そうだったんだ。こんなところで会うなんて、ほんと偶然だよね。まるで運命みたい」
どうやら梨子ちゃんも運命みたいだと思っていたみたいで、同じことを考えていた自分がなんだか嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが入り混じる。
同じ思考をしていたなんて、彼女に知られたらなんて思われるのか、たまったもんじゃない。
そんなことを思っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。誰かと思って振り返ってみると、私をここに連れてきた上司だった。
梨子ちゃんと再び会えることができたのはこの人のおかげなのだけれど、今は梨子ちゃんとの会話中。邪魔しないでもらいたい。
――渡辺、もう帰るぞ。
そう言われ、私は梨子ちゃんの顔を伺う。
「私は毎日ここにいるから、よかったらまた来てね、曜ちゃん」
そんなことを言われた。本当はもう少し話していたかったし、梨子ちゃんにもそう言ってほしかった。そう思ってしまう私は、自分勝手なんだと思う。
「うん、また来るね」
本当に来るかどうかは定かではないが、私は梨子ちゃんの言葉にそう返した。すると梨子ちゃんはニッコリと微笑んだ。
思えば彼女の笑う顔を見るのも、ずいぶんと久しぶりな気がする。十年ぶりに見た梨子ちゃんの笑顔は、昔と変わらず可愛くて。
私はまだ彼女のことが好きなんだと、改めて強く実感したのだった。
***
「曜ちゃんって、今じゃ日本を代表する高飛び込みの選手じゃない?」
カクテルの入ったグラスを傾けていると、唐突にそんな言葉を投げかけられた。
梨子ちゃんと再会した翌日。仕事が終わった私は、梨子ちゃんの働くピアノバーに再び足を運んだのだった。
「そうだね。それがどうかしたの?」
バーに行こうかどうか迷ったけれど、やっぱり今の私は梨子ちゃんに会いたいみたいだった。二度目の初恋を自覚したぶんだけ、その思いは強かった。
実際バーを訪れて梨子ちゃんのピアノを聴いて、梨子ちゃんの顔を見ると、私の胸はドキリと高鳴ったのだから。
高校生のとき、一度目の初恋をまだ捨て切る前の私が味わったあの感覚と同じ胸の高鳴りだった。
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