桜の音色に包まれて
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が、その頃の記憶は今も色あせることなく、まばゆい輝きを放ち続けている。
なかでも彼女が奏でるピアノの音色が好きで、毎日のように音楽室に足を運んでは、隠れながらこっそり聴いていたものだ。
そうやって毎日聴いていた彼女のピアノの音色は、十年経った今でもその色を失っていなかったと、つい先ほど思い知らされた。
音の色と書いて音色と言うように、音にはそれぞれ色があるのだと思う。
彼女の音色は、淡い桜色だった。その優しい心と、彼女自身の清楚で綺麗な見た目を体現しているような、そんな桜色。
毎日のようにその音色を聴いていた私の心は、いつしかその桜色に染まっていた。
優しくて、純粋で、温かくて。
そんな音色に包まれた私が、彼女に恋をするのは必然だった。
だけど私は、その恋は叶わないものだと諦めた。女の子同士の恋愛なんて、上手くいくはずがない。告白なんてしたら、きっと彼女は困った顔を浮かべるだろうし、きっと私は距離を置かれるだろう。
彼女とは友達のままでいい。会話をして、笑いあって。そんなふうに友達として同じ時間を共有できれば、それで十分幸せじゃないか。
想いを告白して距離が離れるなら、その想いはそっと胸の内にしまって、鍵をかけておくべきだ。
私の初恋は、そうして終わった。
――はずだったのに。
大人になって、彼女の音色を聴いて、彼女の姿を見た瞬間、私はまだ彼女のことが好きなんだと思い知らされた。
まるで彼女の奏でるピアノの音色が、厳重に閉じていた鍵をこじ開けたかのように。
私に二度目の初恋が訪れた。
「梨子ちゃん、どうしてここに?」
十年ぶりの対面。最初に口をついて出た言葉は、彼女がどうしてこのピアノバーでピアノを弾いていたのかという、そんな疑問だった。
高校を卒業して違う大学に進学した私たち。しばらくは彼女とも連絡を取り合っていたけど、だんだんとやり取りは少なくなって、大学を卒業する頃には完全に連絡を取り合わなくなっていた。
そんな彼女と、偶然訪れたピアノバーで再会するなんて、誰が予想できただろうか。
少しロマンチックな言い方をするなら、神様がいたずらしたかのような、運命の巡り合わせ。
運命だなんて言葉はあまり好きではないのだけれど、今日この場で再会したことは運命としか言いようがないような、そんな突拍子もない偶然だった。
「わたし、ここで働いてるの。今日みたいに毎晩ピアノ弾いたりして。昔は他のことも色々やったりしたけど……やっぱり私には、ピアノしかないんだって気づいたの」
どこか申し訳なさそうに言いながら、梨子ちゃんはグラスを傾けた。
ピアノを弾き終えた梨子ちゃんは、今はカウンターに私と
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