花咲く果実
[1/7]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
――ずっと、その人のことが気になっていた。
それは、私――高坂穂乃果が中学三年生だった頃。
四月のクラス替えで、その人とは初めてクラスメイトになった。
しばらく時が経ち、クラスでのグループみたいなものが固まりつつあっても、その人はいつも一人だった。
誰かと会話しているところを見た事が無い。いつも自分の席に座り、黙々と文庫本を読んでいた。
見た目は悪くない。スラッとしていて、むしろカッコイイ方だったと思う。
いつも一人でいるその人を、私は密かに目で追っていた。
一度、海未ちゃんとことりちゃんに気付かれて取り乱した事もあったけど、それでも私はその人を横目で眺め続けていた。
熱心に本を読むその姿は何だか神秘的で、人を寄せ付けない雰囲気があった。
でも、どうしていつも一人なんだろうと私は疑問に思った。
みんなで一緒にいる方が楽しいのに。
でも私は、その人にそれを言おうとは思わなかった。いや、言えなかった。
他人を寄せ付けない雰囲気の中、珍しく私は話しかける事を躊躇ってしまった。
それに……不思議だけど、その人には一人でいる姿が似合っていた。
みんなと一緒にいる方が楽しい私と、一人でいる姿が似合う彼。
――きっと私は彼と、仲良くなれないのだろう。
結局、クラスメイトだった中学三年生の一年間。私と彼が会話する事はなかった。
そして、私は高校二年生となった。
***
μ’sの練習が終わった後、私は実家の和菓子屋『穂むら』の仕事を手伝っていた。
手伝うといっても、カウンターに座ってレジや接客をするだけの簡単な仕事だ。
今日はあまり客が来ないまま、そろそろ閉店の時間になろうとしていた。
「……もうお客さん来ないだろうし、お店閉めちゃおっかな」
少し早いけど、私は店のシャッターを閉めようとカウンターから出ようとした。
その時だった。
一人の男性客が、店に入って来た。
「いらっしゃませー!」
まだ接客をしなければならない事に、私は少しだけ肩を落としたが、仕事は仕事。そこはきちんと接客をする。
再びカウンターに戻り、暇だったので男性客に視線を向けた。
近所の共学校の制服を着た、背の高いスラッとした男子高校生。
そして端正なその顔立ちに、私はどこか既視感を覚えた。
「すいません、会計お願いします」
その人がカウンターに商品を置き、私にそう言った。
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ