暁 〜小説投稿サイト〜
いろいろ短編集
久遠の記憶、憧憬の景色。
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った。


 朝食の席でも、両親は言い争っていた。
 目玉焼きに醤油かソースかなんて、どっちでもいいじゃないか。


 そんな下らないことですら、本気の喧嘩を繰り広げる両親。
 広間にいる他の宿泊客からの視線が、私に寄せられる。


 それは、同情の視線。
 両親の口論の間で板挟みになっている私への、哀れみの感情。


 その視線が、ものすごく嫌だった。


 私は早々に朝食を平らげ、未だ言い争っている両親を残し、広間をあとにした。




 その後、部屋に戻って着替え、外出の準備を済ませたら、私は松実館の外に出た。


 まだ朝の八時過ぎ。
 子供達が通学している姿が、チラホラと見受けられる。


 今日は、何をしようか。
 勢いに任せて旅館を出てきたけど、何も決まっていなかった。


 サイフとケータイは持っている。
 昨日のような失態はしない。


 さて、これからどうしようか。


「あれ、久?」


 予定を思案していると、声をかけられた。


 初めて訪れるこの地で、私の名前を知っているのは――


「憧ちゃん、おはよう」


 彼女、新子憧だけだ。


「おはよう。こんな朝早くから何してるの?」
「うーん……散歩?」
「うわー、年寄りくさー」


 この憧ちゃん。私より二つ年下なんだが、どうも私に対して遠慮がない。
 昨日初めて出会ったときも、こんな感じで人懐っこい子だった。


「悪かったわね。憧ちゃんは、これから学校?」
「うん。不良の久とは違って、私は真面目だから」


 えっへん、と聞こえそうな自慢気な表情をして、憧ちゃんは胸を張る。


「久は、これから観光?」
「……ええ、そのつもりよ」
「一人で? お父さんとお母さんは? 家族旅行なんでしょ?」


 一人でいる私に疑問を抱いたのか、憧ちゃんにそう尋ねられる。


「お父さんとお母さんは、疲れたちゃったみたいなの。だから一人で観光よ」
「ふーん、そうなんだ」


 ついつい、嘘をついてしまう。
 家庭の事情なんて、昨日出会ったばかりの彼女に話すことではないし。そもそも正直に話したところで、変な気を遣わせるだけだ。


「じゃあ、私が久の観光に付き合ってあげる!」


 何を思ったのか、憧ちゃんは唐突にそんな提案をした。


「いやいや、学校なんじゃないの?」
「サボる!」
「いや、私が言えることじゃないけど、ちゃんと学校には行かなきゃダメよ?」
「いいの! こう見えて私頭いいから、一日休んだって大丈夫なの!」


 そういう問題じゃないんだけど……。


「あぁもう! 私が付き合
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