久遠の記憶、憧憬の景色。
[5/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
った。
朝食の席でも、両親は言い争っていた。
目玉焼きに醤油かソースかなんて、どっちでもいいじゃないか。
そんな下らないことですら、本気の喧嘩を繰り広げる両親。
広間にいる他の宿泊客からの視線が、私に寄せられる。
それは、同情の視線。
両親の口論の間で板挟みになっている私への、哀れみの感情。
その視線が、ものすごく嫌だった。
私は早々に朝食を平らげ、未だ言い争っている両親を残し、広間をあとにした。
その後、部屋に戻って着替え、外出の準備を済ませたら、私は松実館の外に出た。
まだ朝の八時過ぎ。
子供達が通学している姿が、チラホラと見受けられる。
今日は、何をしようか。
勢いに任せて旅館を出てきたけど、何も決まっていなかった。
サイフとケータイは持っている。
昨日のような失態はしない。
さて、これからどうしようか。
「あれ、久?」
予定を思案していると、声をかけられた。
初めて訪れるこの地で、私の名前を知っているのは――
「憧ちゃん、おはよう」
彼女、新子憧だけだ。
「おはよう。こんな朝早くから何してるの?」
「うーん……散歩?」
「うわー、年寄りくさー」
この憧ちゃん。私より二つ年下なんだが、どうも私に対して遠慮がない。
昨日初めて出会ったときも、こんな感じで人懐っこい子だった。
「悪かったわね。憧ちゃんは、これから学校?」
「うん。不良の久とは違って、私は真面目だから」
えっへん、と聞こえそうな自慢気な表情をして、憧ちゃんは胸を張る。
「久は、これから観光?」
「……ええ、そのつもりよ」
「一人で? お父さんとお母さんは? 家族旅行なんでしょ?」
一人でいる私に疑問を抱いたのか、憧ちゃんにそう尋ねられる。
「お父さんとお母さんは、疲れたちゃったみたいなの。だから一人で観光よ」
「ふーん、そうなんだ」
ついつい、嘘をついてしまう。
家庭の事情なんて、昨日出会ったばかりの彼女に話すことではないし。そもそも正直に話したところで、変な気を遣わせるだけだ。
「じゃあ、私が久の観光に付き合ってあげる!」
何を思ったのか、憧ちゃんは唐突にそんな提案をした。
「いやいや、学校なんじゃないの?」
「サボる!」
「いや、私が言えることじゃないけど、ちゃんと学校には行かなきゃダメよ?」
「いいの! こう見えて私頭いいから、一日休んだって大丈夫なの!」
そういう問題じゃないんだけど……。
「あぁもう! 私が付き合
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ