久遠の記憶、憧憬の景色。
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て松実館?」
「そうそう、それよ! 松実館! 知ってるの!?」
少女の言葉で思い出した。
宿泊先に選んだ旅館は松実館だった。
「友達の家なんだ! おねーさん、もしかして旅行で来たの?」
「そうよ、家族旅行」
もはや家族旅行と言っていいのかわからない位、ひどい有様ではあるけど。
「学校サボって?」
「まぁ、サボりで合ってるわね」
今日は平日。通常なら学校がある。
しかし、学校より家族の時間を大切にしたかったのだ。
「うわー、おねーさん不良ってやつだー」
「不良じゃないわよ! いいから早くその松実館までの道教えてよ!」
いつまで経っても道を教えてくれない少女に吠える。
すると少女はあっけからん顔で、こう言ってのけた。
「あぁ、松実館なら帰り道の途中にあるから、案内してあげる」
「本当!? ありがとう! えぇっと……」
思わぬ幸運に、私は歓喜する。
案内してくれるという少女にお礼を述べるが、続きの名前がわからない。
「憧だよ、新子憧。私の名前」
言葉に詰まっていると、察してくれたのか、少女が自ら名乗ってくれた。
「憧ちゃんね、可愛い名前じゃない。私は――」
名乗ろうとして、思い出す。
既に両親の離婚は成立していて、私の親権は母親にあることを。
名字が変わってしまったことを。
でも、この家族旅行の間だけは――
「――私は、上埜久。よろしくね」
旧姓を名乗ることを、許してほしい。
「じゃあ久、案内するからちゃんと付いて来てね! じゃないとまた迷子になるよ!」
「もう迷子にならないわよ! あっ、憧ちゃん待って! 置いていかないで!」
「久が遅いんだよ! 早く来ないと置いてっちゃうよ!」
「憧ちゃん、待ってー!」
走って遠ざかっていく、ついさっき出会ったばかりの少女――憧ちゃんを、私は必死に走って付いていくのであった。
***
昨日出会った少女――憧ちゃんに案内され、私は無事に両親の待つ松実館にたどり着いた。
憧ちゃんにお礼を言って別れ、両親のもとへ戻ると、両親は帰ってきた私に無関心だった。
何も話しかけてくれなかった。
どこに行ってたんだ。心配してたんだぞ。
そんな言葉すら、かけてくれなかった。
起床する。
旅館で目覚める朝というのも、なかなかに新鮮だ。
しばらくすると両親も目を覚ました。
支度をして、三人で朝食の用意されている広間へと向か
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