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いろいろ短編集
久遠の記憶、憧憬の景色。
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と言わないでよ」


 でも、いつもよりオシャレに気合いを入れているのは事実。


 あの人に会いにいくのに、中途半端な格好だけはしたくないから。


「うんうん、気合いが入ってるのはいいことだ。頼んだぞ、憧!」
「任せて晴絵(はるえ)! 思いっきりカマしてくるから!」
「憧ちゃん、あったかーい」
宥姉(ゆうねえ)……ありがと!」


 麻雀部の仲間から、激励を受ける。


 気合いも入った。
 準備もできた。


「それじゃあ、行ってくる!」


 仲間に見送られ、控え室を出る。


 あの人がいなくなってから、私は努力した。


 麻雀もオシャレも、あの人の隣に立てるように研鑽を重ねた。


 あの人は私のことを覚えているのだろうか。


 わからないけど、覚えてないなら思い出させるまでだ。


 そんな決意を胸に、私は決勝戦が行われるステージへと向かった。




***




 コツ、コツ。
 ローファーが床を踏む音がして、私は閉じていた目を開いた。


 思い出していたのは、三年前の記憶。


 家族旅行で訪れた奈良で出会った、一人の女の子。


 これからその子と、再会する。


 そういえば、初めて会ったときも、今みたいなローファーの音がキッカケだった。


 足音が、だんだんと大きくなる。


 この場には未だ私ひとりだけ。
 対戦相手の誰かが来たことは明らかだ。


 音の方向に目を向けなくても、私はその足音の持ち主が誰なのか、確信していた。


 音が最大限大きくなり、やがて聞こえなくなった。


「……久しぶり、久。私のこと覚えてる?」


 懐かしい声がして、目を向ける。


 あぁ、やっぱり彼女だ。


「久しぶり、憧ちゃん。大きくなったわね」


 久しぶりに目にした生身の憧ちゃんに、ふと目頭が熱くなる。


「よかった、覚えててくれたんだ」


 憧ちゃんは、若干涙声になりながらホッとしたように呟いた。


 そんなの、忘れるなんてあり得ない。


「もちろんよ。髪、伸びたわね」
「うん。久は、髪切ったんだね」


 憧ちゃんとの久しぶりの会話。
 なんだか、胸の奥が熱くなる。


「ほんとよく、私のこと覚えててくれたのね。名前変わっちゃったのに」


 出会ったとき、私は憧ちゃんに“上埜久”と名乗った。
 そのときにはもう竹井久だったのだけれど、私は上埜と旧姓のほうを名乗ったのだ。


「そんなの、顔を見ればわかるわよ」


 その言葉に、胸がジーンと熱くなる。


 あの時
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