自己ベストずら
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発したのは、以外にもルビィだった。
「あのっ! 榎本くん、その、えっと……」
懸命に言葉を探そうとするルビィ。俺は何も言わずに、彼女の言葉を待った。するとルビィは、勢いよく頭を下げ――。
「ごめんなさい!」
「えっ」
ルビィが謝る意図がわからず、俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。そんな俺を気にする素振りもなく、ルビィは続ける。
「榎本くんが負けちゃったの、ルビィのせいだよね。この前、ルビィのせいで榎本くんが怪我しちゃって、それで……」
なんだ、そういうことか。ルビィが自分を責める理由に合点がいった。俺が予選であっさりと敗退したのは、一週間前の怪我が原因だと。そしてその原因をつくってしまった自分を責めているのだと。
「違う、ルビィのせいじゃない。俺が負けたのは、俺の実力が足らなかったからだ」
「でも……でも……っ!」
それでもルビィは自分を責める。俺のためにここまで自分を責める良い子だ、思い違いをさせたままにしていたくない。
どうしたもんかと考えていると、ルビィの隣にいたマルが言葉を発した。
「ルビィちゃん。ハルくんの言う通り、ルビィちゃんは何も悪くないずら」
「でも、ルビィのせいで……」
どうしても罪の意識が拭えない様子のルビィ。そんな彼女に、マルは言葉を続ける。
「自己ベストずら」
「えっ……?」
マルのその言葉に、ルビィはハッと顔をあげた。さっきまでの自戒の念はどこか遠くに消え去っているようだった。
「今日のハルくんのタイムは、ハルくんの自己ベストずら。ハルくんは全力を出して、負けた。だからルビィちゃんのせいじゃないずら」
「本当……?」
マルの言葉に半信半疑なのか、ルビィは俺に向かってそう尋ねてきた。
「ああ、本当だ。恥ずかしいけど、今日のタイムが俺の自己ベスト。もともと、全国に出場できるような実力は俺には無いんだ」
「……」
俺の言葉を聞いてルビィは俯いて押し黙った。きっと俺の言葉に何も言い返すことができなくて、気の利いた言葉を探しているといったところだろうか。
ちょうど目の前にそれがあったからなのか、それとも深層心理で俺自身がそうしたかったのか。気がつけば俺はルビィの頭の上に手を置いていた。
「だからお前のせいじゃないよ、ルビィ」
「う……うぅっ……」
頭を撫でると、ルビィは今にも泣き出しそうな声をあげる。涙を我慢しているのは、大会で負けた俺の手前なのだろうか。もしそうだとしたら、彼女はなんて優しい心の持ち主なんだ。
手の甲で目元を擦ったルビィが、顔をあげて俺と目
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