目標に向けて
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えてきそうなほど勢いのいい飲みっぷりは、さすが曜さんといった感じだ。
「そういえばさ」
水分補給を終えた曜さんは、真っ直ぐプールの方を向いたまま話を切り出した。
「もうすぐ大会だよね。陽輝も出るの?」
隣の俺に一切視線を向けず、曜さんは前だけを見て言った。きっと大会で、あのプールで飛び込んでいる自分自身を想像しているのだろう。曜さんならそうしている気がした。
「出ますよ。頑張って練習してるんですから。曜さんも出るんですよね?」
「もちろん! まぁそうだよね。陽輝、頑張ってるもんね」
「見てたんすか?」
「待ち時間のときとか、暇だったから」
「そっすか」
曜さんに練習を見てもらえているとは思わず、俺は無性に嬉しくなった。頑張っているところを見てもらえていた。
まだまだ曜さんと肩を並べられるような選手じゃないのに、曜さんはこうして俺に気をかけてくれている。上手い下手といった打算的な尺度ではなく、曜さんは実力関係なく俺と親しくしてくれている。
だから次の大会では、好成績を収めたい。それでもまだ、曜さんのようなトップアスリートにはなれないだろう。
いつか。水泳を続けて、いつか曜さんに俺の実力を認めてもらう。それが目標であり、俺が今水泳をする原動力でもある。もちろん、泳ぐのが好きだからという理由もあるのだけれど。
「よしっ。じゃあ私は練習に戻るよ」
「あ、じゃあ俺も戻ります」
二人して腰を上げる。視線の先には大きなプール。大勢の人が楽しげに泳いでいる。だけど二ヶ月後のあの場所は、それぞれが覇を競い合う戦場と化す。
隣の曜さんの様子を俺は伺わなかった。きっと曜さんの視線も、俺と同じようにプールを捉えていると思ったから。邪魔しちゃ悪い。
「っし! 大会に向けて頑張りますか!」
「うんうん! 頑張ってね、陽輝!」
――バシーン!
「痛……ッ!」
「じゃあ、お互い練習頑張ろうね!」
曜さんは俺に笑顔を向けたあと、練習へと向かっていった。俺はその様子を膝をつきながら見送った。なんとも情けない。
去り際に背中を思いっきりビンタされた。それでいて俺に笑顔を向ける。そのときだけは、曜さんの考えていることがよく分からなくなる。
でもきっと、あれは曜さんなりの激励だったのだろう。背中の痛みが頑張る活力になる……なんてことはない。痛いものはただ痛いだけだ。
でもまぁ……。
「頑張りますか!」
気合が入ったのは確かだった。
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