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国木田花丸と幼馴染
修学旅行
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 マルが店内の一角を指差す。視線を向けるとそこには、商品を手にとって食い入るように見つめている黒澤の姿があった。


「よかった……」


 店に入る際にはぐれてしまったと思ったので、俺は心底安心した。ホッと安堵の息をひとつついて、マルと共に黒澤のもとへと向かい声をかける。


「黒澤、頼むから勝手にどこかにいかないでくれ。はぐれたと思うだろ」

「ご、ごめんなさい……」


 注意をすると、黒澤はシュンと表情を暗くして肩を落としてしまった。少しキツい物言いになってしまったかもと反省するが、はぐれたら困るのは事実。初めて訪れる東京で迷子になられると、見つけるのは困難だから。


「ルビィちゃん、その手に持ってるのって……」


 黒澤が持っているものが気になったのか、マルが尋ねる。すると黒澤の暗い顔はどこへやら、パッと明るい表情で持っているそれを俺とマルに見せてきた。

 一枚のCDケース。そこには複数の少女が写っていた。そして俺は、その少女達を知っている。


「花丸ちゃん、これμ’s(ミューズ)だよ!」

「ホントだ! μ’sのCDじゃんそれ!」


 黒澤が見つけたμ’sのCDに思わず興奮してしまい、声が大きくなってしまった。黒澤がビクッと怯えた表情を見せ、俺はすぐに落ち着きを取り戻そうとする。

 μ’s――数年前、ラブライブという大会で優勝した伝説のスクールアイドル。今はもう解散しているのだが、未だにファンが多いと聞く。かくいう俺もその一人だ。

 ぐるりと店内を見渡すと、μ’sだけでなく沢山のアイドルの商品が所狭しと陳列されていた。どうやらこの店はアイドルショップみたいだ。


「ミューズ……石鹸ずら?」

「花丸ちゃん?」

「ち、違うの? ごめんずら……」


 μ’sを某薬用石鹸のことだとマルは勘違いしていた。それを聞いた黒澤が鋭い目つきでマルを睨んだ。初めて見る黒澤の表情にマルのみならず俺までと少したじろいでしまう。


「違うぞマル。この人達は、μ’sっていう名前のスクールアイドルなんだ」

「スクール、アイドル?」

「高校生が部活でするアイドルのことだ」

「へぇー、そんな人達がいるんだ……」


 マルに簡潔な説明をすると少し興味が沸いたようで、黒澤の持っているCDをまじまじと見つめ始めた。


「あ、あのっ! 榎本くん!」

「ん?」


 少し震えた声で俺の苗字を呼んだのは、黒澤だった。実はこれが、黒澤に初めて名前を呼んでもらえた出来事だったりする。


「榎本くん、μ’s……好きなの?」


 そんな普通の質問。これが俺と黒澤が交わす、初めての会話らしい会話だった。


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