幼馴染という関係
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になった俺は、次の授業風景を想像して絶望した。だってあの先生、宿題忘れるとめちゃくちゃ怒るんだもん。
掴んだと思った勝利は水泡となって俺の手から離れていった。勝利というものは往々にして確信した瞬間に離れていくことが多い。例えば水泳なんかでも、ラストのターンで勝利を確信していたら追い抜かれて負けることが多い。まだ掴んでもいないのにその気になってしまうと、油断して隙が生まれてしまう。勝利は決まってその隙間から離れていってしまうものだ。
だけど、離れてしまった勝利を再び掴むことは不可能ではない。追い抜かれたラストのターンから再び追い抜き返すことは可能なのだ。そのまま追い抜き返したことの方が圧倒的に少ないけど、それでも勝利を掴んだことはある。
「なあ頼むよマル、ほらこの通り!」
「ダメと言ったらダメずら」
両手を合わせて幼馴染を拝むような必死の懇願でも、勝利を手にすることができなかった。しかし俺には、この勝利を掴み取る必殺技があった。
「お願いします花丸様! 帰りに松月のケーキひとつ奢るから!」
「ケーキ!?」
これが俺の必殺技、ずばり名前は『俺の幼馴染はスイーツ大好きだから、それで釣ってしまえば多分落ちる』である。実際、ケーキひとつに幼馴染の表情は一変した。勝利がグッと近づいたが、まだ油断はできない。隙を与えてしまうと勝利はそこから逃げていく。彼女が敗北を認めたときに初めて、俺に勝利の瞬間が訪れるのだ。
「……ケーキふたつずら」
「っ、ま、まあいいだろう、交渉成立だ。さあ例のブツを早くよこせ」
予定より財布の中身が寂しくなってしまうが、まあ問題はない。俺にとっては宿題を忘れて先生に怒られることの方が大問題なのである。しかしこの幼馴染、ケーキふたつってどれだけ食い意地張ってるんだ。太るぞ。
俺の幼馴染――国木田花丸は普段からよく食べるのだけれど、太っているという印象は全くない。むしろスタイルが良く、それでいて背が小さいという訳のわからない体をしている。吸収した栄養が身長に行かずにどこに消え去ったのだろうかとも考えたが、マルの胸を見ると全て納得がいった。
「例のブツって……はいノートずら」
ノートを俺に渡すとき、卵色のカーディガン越しにマルの胸がゆさゆさと動いた。それにいちいちドキリとはしない。俺が何年マルの幼馴染をしていると思っている、十年だぞ十年。まさに互いの骨から髄まで知り尽くした関係と言っていいだろう。いや、さすがにマルの骨や髄のことは知らないけれども。
「サンキュー! さすがは俺の幼馴染だ!」
マルに礼を言うと、俺は自分の机にそのノートを広げて宿題を始めた。いや、宿題を写し始めた。
「全く褒められて
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