夜虎、翔ける! 1
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「アポイメントなしでは市議会議員にもお目にかからんというのか、学園長というのはずいぶんとお偉いようですな」
「ほほほ、さすが教育ひとすじ半世紀の方は礼儀にうるさく、世事にうといようで」
タバコをくわえた栄養不良のブルドックじみたいかつい男とインテリヤクザめいた風貌の男が交互に嘲笑をあびせる。前者は立花市議会議員の木内、後者は多嶋一族の秘書を務め、立花銀行会長の肩書をもつ植田といった。
「この木内には二万人の支持者がついている。つまり私の行動はこの二万人の声を代表しているのだ。私をないがしろにすることは二万人の有権者とその家族をないがしろにすることだぞ。わかっているのかね学園長。ええっ?」
「そうですぞ、市民の陳情を聞いたり視察をなさったり式典で祝辞をのべたりと多忙な木内市議がこうして来ているのです。お話を聞くのが礼儀というものでしょう」
ことさら粗暴な木内にくらべ植田のほうは爬虫類めいた底意地の悪さで脅迫めいた言動を繰り返す。まるで二人一組で容疑者を取り調べるにあたり飴と鞭を使い分ける合法ヤクザの手口だった。
俗に田舎に行けば行くほど政治業者とその関係者の質と態度が悪くなると言われるが、そのとおりらしい。
「――なんと言われようと移転の件ならおことわりします。創立以来わが学園はこの土地にある。どこにも動くつもりはありません」
「やれやれ頑迷な、ちゃんと代替え地は用意したじゃありませんか。今の敷地よりもはるかに広いというのに欲張りな……」
「広ければ良いというものではありません。あの代替え地は山奥で生徒の通学に不便すぎます。電車もバスも通ってさえいないではないですか」
「山奥とはなんだっ!」
木内は大喝してテーブルの上に乗せた足を上げて振り下ろした。灰皿が大きくおどって床に落ち、吸い殻と灰が綺麗なカーペットを汚す。
「あそこも立花市の立派な市内だぞ、そこに住む市民を侮辱するつもりか、ええ!?」
ことさら大声を出して暴力団まがいの恫喝をあびせつつ、薄笑いを浮かべた。相手を脅しつけ屈服させるときのいつものやりくちだった。相手は木内の大声に驚き、ついで不気味な薄笑いに恐怖し、混乱して木内のペースにのせられる。これが木内流の交渉術であった。
だが今回はその低俗な手口は通用しなかった。老いたりとはいえ誇りと信念をあわせもつ教育者は再度拒絶の意思を脅迫者に伝える。
「……学園長の考えはわかりました。しかしそれは多嶋一族の、ひいてはトコヨ様のご意向に反することだということはご理解したうえでのことでしょうね?」
爬虫類じみた容貌に歪んだ冷笑を浮かべて植田が言った『トコヨ様』という単語に吉良ははじめて動揺の色を見せた。
ここぞとばかりに畳み掛けようとしたそのとき、ドアが開いてよ
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