暁 〜小説投稿サイト〜
ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
シーホーク騒乱 3
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
腕を一閃すると、板金鎧の肘関節部分に短剣が突き刺さっていた。

(介者剣法か! やるな、このじいさん。だがこの甲冑野郎ども、人ではない!)

 介者剣法とは鎧兜を身につけた重装備の剣法、もしくは重装備の敵に対する剣法のことを差す。
 腰を落として重心を低くして構え、自分の鎧の防御力を最大限に利用しつつ相手の鎧のすき間や下半身を狙って突いたり足を薙ぎ払うなどの攻撃をするものだ。
 どんなに硬い鎧を身に着けていても肘や膝、首筋といった関節部分は守れないし、重い鎧を身に着けた状態で転倒すれば容易に立ち上がれない。
 リアリティを軽視していたり、作り手の想像力が乏しい映像作品などではたまに鎧を着こんだ相手に剣で正面から斬りつけ、その一撃で相手が倒されるシーンが出てくるが、鎧を着ている限りそんなに簡単に倒されたりはしない。
 そんな鎧ならいっそ着ないほうが身軽なだけ有利である。

 板金鎧は一瞬だけ動きを止めたが、負傷した様子もなく腕を振るう。

「ぬぬっ」
「いかん、マスターソンさん。そいつらはリビングアーマーだ。中に人はいない」
 
 リビングアーマー。
 魔力によって動く生きた鎧。精霊や幽霊といった霊的存在が憑依して動くアンデッド・モンスターの場合もあるが、今回は魔術によって人工的に作られたゴーレムタイプだと、秋芳の見鬼は見抜いた。

「なんと、どうりで手応えがないわけだ」

 どんな堅固な鎧を身につけていても、生身の人間ならつなぎ目狙いの刺突攻撃が有効だ。しかし相手が生身を持たない生きた鎧とあってはダガーでは効果が薄い。
 一定以上の損傷を与えてやっと動きを止める生きた鎧相手にどう立ち向かうか――。

「ミーア、アキヨシ。ふたりは早くお嬢様のところへ!」
「は、はい!」
「いや、この数を相手にひとりでは骨が折れることだろう。俺にも多少の心得はある、加勢しよう」
 
 秋芳は近くにあった薪割り用の斧をマスターソンに手渡すと、自身は素手でリビングアーマーの一団に立ち向った。
 大振りな攻撃をかわしつつ踏み込んで掌打を放つ。
 足の踏み込み、腰の回転、肩のひねりによって生じた力。そこへさらに全体重をくわえて一点に集中された一撃はリビングアーマーの厚い鉄板を穿ち、吹き飛ばす。
 さらに打ちかかって来る二体のうち一体の腕を両手でつつみ、軽くひねると、耳障りな金属音を立てて本来ならば曲がらない方向に腕がひしゃげた。人ならば関節が破壊された痛みに悶絶しているところだろう。
 そのまま体を揺らすと、いかなる力の作用なのか、リビングアーマーが右に左にと激しく振り回される。
 等身大のモーニングスターと化した鎧で周りにいる鎧兵どもをなぎ倒す。

「おお、それらの技は魔闘術(ブラック・アーツ)というやつかね!?」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ