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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 2
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 軍人とは現実主義者だ。言動はともかく呪術師としては一流だと認め、一同おとなしくその様子を見守る。
 しばらくすると崖山の上空にあった黒雲はゆっくりと元が陣取る対岸に移動してくるではないか。沖に展開している元の船団が暴風と高波で木の葉のように翻弄される。
 本陣にも豪雨と暴風が吹き荒れ、嵐のただ中と化した。
 閃光が奔り、天と地を一本の帯が結ぶ。落雷が突き立った。
 地震のような衝撃に世界が砕かれたかのような轟音。光と闇が反転し、五感が瞬時に塗りつぶされる。
元の陣営は稲妻によってズタズタに切り裂かれた。





 話はその少し前にさかのぼる。
 宋朝に仕える文武百官の前で雨乞いの約束をした秋芳の袖を京子がそっと引っぱった。

「ねぇ、その仕事。あたしにやらせて」
「興味あるのか?」
「とうぜんでしょ、だって雨乞いといえば呪術師の本領発揮、絶好の檜舞台だもの。こんな機会はめったにないわ」

 日照りが続けばとうぜんの結果として凶作になる。そしてそれに続くのは飢饉であり、こうなれば経済的な打撃をこうむる。国家の根幹を揺るがす事態だ。
 神道、仏教、陰陽道、修験道――。かつての日本ではおよそ効果が期待できればいかなる呪術流派も雨乞に参加し、名をはせた。山伏の祖とされる役小角、弘法大師空海、真言宗の仁海などなど――。
 呪術師以外にも、たとえば小野小町などは雨を請う二首の歌を詠み、みごとに雨を降らせたことから雨請小町という異名がある。

「わかった。で、どの呪法を使う?」

 雨乞いの呪法は数多く存在する。密教には大雲経や陀羅尼集経といった雨乞いに霊験があるとされる経典を読誦してさまざまな作法をおこない、雨神を呼び寄せて雨を降らす術があり、京都の教王護国寺には請雨経曼荼羅という曼荼羅が残されており、この曼荼羅に願をかけて雨乞いの修法をおこなったという。
 さらに孔雀明王を本尊とした孔雀経法などは密教のみならず修験道でも執り行われた。
 神道においては丹生神社や貴船神社に霊験があるとされ、そこの神官による大規模な雨乞いがおこなわれた。
 民間にも雨乞いの呪法は存在し、もっとも有名なのは『おこもり』と呼ばれるものだ。村人たちが交代で氏神の社にこもり雨を祈願するもので、これでも効果がない場合はお百度参りなどがおこなわれた。
 また百度垢離というものもおこなわれ、これは村人が川に入って水垢離するもので、水垢離のたびに川底の石をひろって氏神に供えるという。つまり百度垢離をしながらお百度参りをかねている。
 また遠方にある水神竜神を祀った社などから水をもらってくるということもおこなわれる。この水には雨乞いの霊験があるとされ、村の社にお供えしたり境内などに撒くことで雨を模し、本物の雨を呼び寄せようとする類感呪術だ。
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