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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 2
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う。ちょうど良い、我が旗下の兵士十六万と、泉州の商人より買いつけた軍船数百。それにこの方臘を貸しあたえるゆえ、存分に使うといい」
「それはありがたい。あ、いや、だがしかしまだ敵に本物の呪術師がいると決まったわけではないので……」

 言いよどむ張弘範。十六万の援軍と軍船はたしかに欲しい。だが怪しげな魔術に耽溺し、あまり良い噂を聞かない東安王から、これまた怪しい妖術使いを押しつけられるのはこまる。

「ふぅむ、どうやらまだ拙僧の力をうたがっておられる様子。よろしい、ではさらなる御業を披露してしんぜよう」
 大仰かつ尊大に言うと、兵らに命じて張弘範の返事も聞かずに本陣の外に祭壇を作らせ始めた。
 東安王の手前、やめろとも言えない。張弘範らはしかたなく傍観を決め込んだ。

「しかし準……、なんちゃら方臘とは不穏な名ですな。方臘といえばかつて宋朝に反乱を起こした喫菜事魔どもの首魁と同じ名ではありませんか」

 喫菜事魔。紀元三世紀ごろのペルシャで生まれたマニ教信者のことだ。キリスト教、ユダヤ教、ゾロアスター教などの様々な教義を取り入れた宗教で、中国においても道教や仏教などの一派として独自の発展をとげた。
 この世界は闇、悪が支配しているという思想のもと、闇を倒す最終戦争がやって来ると説いている、根っからの反体制指向なため、時の政治権力者にとっては危険な邪教と見なされた。
 そのためマニ教は魔教。その信者は喫菜事魔、つまり菜食主義の邪教徒と呼ばれて江南地方や四川地方ではしばしば禁止の令が出され、弾圧の中で呪術的要素が強くなっていった。

「彼がその方臘だ。それと準天美麗貴永楽聖公。我の与えた号だから忘れないように」
「ご冗談を、方臘は今から百六十年も昔の人物ですぞ」

 徽宗皇帝の御世に江南地方で方?というマニ教徒が反乱を起こし、その鎮圧に乗り出した官軍は信徒数十万人を殺戮し、首謀者の方?は捕われ、凌遅刑に処された。この時に官軍は現地で略奪の限りを尽くしたため江南地方は地獄と化したという。

「張元帥は尸解仙というものをご存知かな? 不老不死を得るため、肉体を一度死に至らしめる方術で、永楽聖公どのはそれに成功したのだ」

 怪力乱神を好む十三番目の王太子の言葉は張弘範の理解を超えていたため、話題を変えることにした。すると自然、合戦の話となる。

「――そこで密集している船を逆手にとって初戦で火攻めをこころみたのですが、恥ずかしながら失敗してしまいました」
「なに? いかんいかんっ、火攻めはいかん!」
「それはなにゆえ?」
「宋軍が持つ二千艘の船を無傷で手に入れれば今後の助けになる。火計をもちいては灰燼と化してしまうではないか」
「惜しむことはございませんぞ、殿下」

 と、これは弘範の弟の張弘正。


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