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そうだ、つまらない話をしてあげよう
レールの上に立つ男の話
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これはわたしがまだ若かった頃の話だよ。そうだね――今の君と同じくらいの歳ことだったかな? 自分探しの旅と言ってあてもなく家を飛び出し世界中を飛び回った……いやあ若いっていうのは素晴らしいね。何も恐れる者がなくてただひたすらに前へと進んで行ける。
その時のわたしも前へ進んでいたのさ、まっすぐと置かれたレールの上を走っていたんだ、二輪車を飛ばしてね。
そのレールはおそらくもう使われていないのだろね。「草はボーボー、レールも錆びてとてもじゃないが使い物にならなそうだ。よしこれなら列車と正面衝突なんて気にせず走れるぞ」なんて思ってかっ飛ばしていたのさ。
でもね。もう使われていないと思われたレールだったのだけど、

「やあ、旅人さん」

レールの上で一人のお爺さんに出会ったんだ。歳はそう、今のわたしくらいの痩せて骨と皮膚しかないような長身のお爺さんだったなあ。わたしのような立派な髭を生やしていなかったのが、今として実に残念だ。

「すまないが旅人さん。このリアカーはそう簡単にはどかせられないんだ。悪いがモトラドさんをレールから一度出してくれんかの?」

お爺さんはわたしの方を一切振り向かず、一心に錆びたレールをブラシで磨きピカピカに磨いていた。
真っ直ぐに伸びたレールには一本の草も生えてなくてね、太陽の光を反射してピカピカに光っていてそれはそれは見事なものだったよ。わたしはその光景に見惚れつつも「あ、はいっそうします」と二輪車から降りてレールから一度出てお爺さんに「あなたが全部草を取ってレールを磨いて全部一人でやったんですか?」と聞いてみたのさ、するとお爺さんは顔を上げずに平然と「ええ。仕事じゃからの」と答えたんだ。
いくら仕事といえどこんな地味な事をずっとやっているのは凄い「どれくらいからですか」と聞くとお爺さんはレールを磨く手をいったん止め地面にお城を付けて「五十年程じゃ」と休憩のつまみにと教えてくれたのさ。

「正確にはわからんけど、たぶんそれくらいじゃ。わしは冬だけ数えたからの」

もしかしたらわたしはとてもいい出会いをしたのかもしれない、と当時のわたしはお爺さんと一緒に休憩することにしたのさ。仕事も旅も休憩は必要だからね。
休憩のつまみにとお爺さんは先程の話のつづきをしてくれたよ。

「わしは十八の時に鉄道会社に入ってな、その時に今は使っていないレールがあるけど、そのうち使うかもしれないから出来るだけ綺麗に磨くように言われたんじゃ。
 まだ止めろと言われてなんでな、こうして続けとる」

「お国には一度も戻ってないんですか?」

「ええ。わしにはその頃すでに妻と子供がいてな、あいつらをなんとしてでも食わしていかにゃならんかったんじゃ。
 ……今はどうしているかのお。わしの給料は出ているはずじゃ、暮らしには困っ
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