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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 1
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重い謝罪にもちいる、頭や額でもって地を叩く頓首などがある。

「秋芳どのといったな、道士といったがいずれの宗派に所属か? 太一教か真大道教か全真教か?」

 太一教、真大道教、全真教。この時代にもっとも著名だった道教の宗派の名だ。

「そのいずれでもありません、瀛州(えいしゅう)にある陰陽塾という洞府に属する遊歴の道士です」

 瀛州。すなわち日本のことだ。
 瀛州、方丈、蓬莱は中国の東海にあるとされる仙境、神山だが、瀛州は日本をさすこともあるので秋芳はそう答えた。

「陰陽塾とは聞かぬ名だが、元の兵らを追い払った術はたいしたものだったとか。さらに尽きかけていた井戸の水をあふれるほど湧かせたとはありがたい」
「うむ、我ら宋の兵士がいかに強くとも、渇きには勝てぬ。よくやってくれた」
「そのことですが、一つの井戸だけで二十余万の人々をまかなうのは大変でしょう。私達の呪術で雨を降らせてみせます」
「おお! まことか!? それは重ねてありがたい!」
「みごと雨を降らせてくれたあかつきには好きなだけ褒美をあたえよう」
「……君子は怪力乱神を語らず」

 静かだがよくとおる声が喜びはやる人々を黙らせた

「道教の教えを否定はしないし実際に元兵を退かせた道士の実力をうたがう気はないが、これは国家の一大事。みだりに雨乞いなどという神頼みにすがるのはいかがなものか。あわれ宋朝は妖術の助けをこうほど落ちぶれたかと、後世の笑い者になるかもしれませんよ」
「なにをおっしゃる陸宰相」

 どうやらこの静かで落ち着いた声の持ち主が陸秀夫のようだ。

「名を取るより実を取れとも言うではありませんか。雨が降り水を得られるのなら、このさいどんな妖術奇術でもかまわないでしょう」
「……たしかに、実があるのならそれこそ妖術の類でもかまわないでしょう。しかし実がなければこまる。……市井には種も仕掛けもある手品を神通力や方術と称して商う者もいる。そのような目くらましや小手先の技を披露されてもこまるのです。このような話を聞いたことはありませんか――」
 
 泥を金に変える術を持つと称する男がいた。黄金を欲する富豪が男を呼び出し、金を作るよう命じた。男は泥を壺に入れて呪文を唱えて手で混ぜると、はたして壺の中からわずかではあるが金が見つかった。
 喜んだ富豪は男を召し抱え、金を作らせた。ある日のこと、より複雑な儀式と時間を要するが泥の代わりに黄金をもちいれば十倍に増やせる術もあると男が言う。男のことをすっかり信じ込んでいた富豪は全財産を金に換えて男に渡したところ、男はその金を持って消息を絶った。逃げられたのだ。
 あとになってわかったことだが、その男が泥を金に変えられるなどというのは大嘘で、あらかじめ爪の間に砂金を入れて泥をこね混ぜ、あたかも
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