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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
観念
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わけか」

 蜃気楼は蜃という巨大なハマグリの吐いた気の作る幻。そのような伝説をモチーフにデザインされたことは想像にかたくない。

「どれどれ……」

 ためしに動かしてみた。
 周囲の景色が一変し、日本庭園が浮かび上がる。京の都は嵯峨の嵐山にある天龍寺の曹源池庭園のようだ。
 いつぞや遭遇した果心居士を称する怪老の幻術にはおよばないが、なかなかのできだった。
 小さな庭からでも無限の宇宙を感じとるのが観念の修行だ。まして天龍寺の庭園ともなればいくらでも想像できる。
 池は大海、そこに浮かぶ岩は蓬莱島、上下に連なる巨石は滝、水面をたゆたう魚影は鯉ではなく竜……。
 秋芳と京子はしばしのあいだ、変幻自在の象徴の世界に意識を飛ばして遊んだ。

「……あたし小さい頃はよく空想のごっこ遊びをしたわ。鯉の泳ぐ池はドラゴンの棲む湖で、松の木は魔女がいる塔。自分はそんな国のお姫様なんだって」
「それは良いことだ。空想好きが長じて作家になる人は多い、そして作家という無から有を生み出すことのできる人はある意味で呪術師以上の呪術師だよな。……そうだ、こんど創作の授業でももうけて、巫女クラスの連中に小説でも書かせるか」
 ふたりは同床異夢ならぬ同立同夢の幻想にひとしきりひたったあと、装置を止めた。
 すると聞きなれぬ声がかけられる。

「――観念の修行なんてして、まだ若いのにえらいねぇ」

 ふりむけばそこに年配の男性が立っていた。よれよれにくたびれたスーツ姿だが不潔な感じはしない、身なりには無頓着だが清潔さには気を使うタイプのようだと直感した。

「最近の若い陰陽師はとかく実務的な技術ばかりおぼえようとしてイメージトレーニングをないがしろにする傾向にあるからね、なげかわしいことだよ。……おっと失礼、私はこういう者」

 差し出された名刺には津守という名と陰陽庁広報課の文字があるが、それに続く文字は一読ではおぼえられそうない。

「長ったらしい肩書きだろう? ようするに閑職に追われた窓際族さ」
「窓際族だなんて、そんな……」
「すばらしい、現代の貴族ですね」

 とっさの返答に窮する京子と素直な感想を口にする秋芳。

「ハハハ! 貴族か、ちがいない。仕事に忙殺されずにこうして好きなことをしていられるんだからね」

 そう言ってあたりを手で指差す。この津守という人物は『観念と呪術』コーナーの責任者で、職務に必要と称してあれこれ融通してもらっているらしい。

「ははぁ、その手がありましたか。よし、俺もこんど……」

 授業に必要な教材と称していろいろと工面してもらうか。

「ちょっと秋芳君、あたしが言うのもなんだけどお祖母様はケ…、倹約家だから、そう旨くいくかわからないわよ」

 津守は自分の仕事の内
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