シーホーク騒乱 2
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得意げに四節になった呪文を唱えると、大きく弧を描くように右に曲がって窓にあたって火花を散らした。
「さらに……《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》で、射程が三分の一くらいになりますの。《雷精よ・紫電 以て・撃ち倒せ》みたいに呪文の一部を消しますと出力が落ちましてよ! 他にも――」
ひとしきり変則詠唱をもちいた魔術を披露して満足したウェンディは自分の馬車へと戻っていく。よほど自分が得た知識を、だれか魔術に理解のある人に見せつけたかったのだろう。
ウェンディが去ってしばらく、ふと思いついた秋芳が両手を広げて【ショック・ボルト】を唱える。
一〇本の指、すべてから雷光が射出されるよう心に念じて。
「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」
右手の指先からひと筋の微弱な電気が放たれた。
「……《群れなす雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」
一〇本の指先から放たれた一〇条の光が壁にあたって弾ける。
続いて両手を拝むように合わせて前に突き出す。
「群れなす雷精よ・疾く集え・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ」
太い雷光が放たれ、壁に焦げ跡を作る。太さだけではなく威力もまた通常のものより上がっているのは明らかだ。
生身で当たれば痺れるだけではすまないだろう。
「意識するだけではダメか。唱えるルーン語を変化させることでのみ術式は改変可能なのか、ただたんに俺が未熟なだけか……」
シーホークに着くまで試し撃ちを繰り返す。いま使える魔術は三種のみ。このみっつでなにが、どこまでできるのか、できる限り把握する。
対人呪術戦というのは手持ちの術(カード)でいかに勝つかにかかっている。手札が足りなかったり弱かったとしても、組み合わせの妙や応用で勝敗は決まる。
この手札、なにも甲種呪術に限ったことではない。
呪術者が数多の問題を解決するにあたり、その手段として呪術が有効なことは確かだが、それはあくまでも手段のひとつ、選択肢のひとつに過ぎない。
大切なのは、より柔軟に対応する能力だ。
ある意味、呪術者が目的のために用いるのなら、剣だろうが銃だろうが、金や舌先三寸で人を動かそうが、なんであろうと「呪」なのである。
呪術は奥が深く、幅が広いのだ。それも様々な方向に。
潮風が吹き、磯の香りがただよう港町シーホーク。
帝国西海岸部の各主要都市や沿岸部各地。周辺の島々をつなぐ定期船が行き交うほか、海外からの貨物船がつねに出入りし、人と物と情報が集まる重要な交易拠点。
各地から訪れる観光客のほか、未知の世界を求めて海図なき航海に挑む冒険者や、一獲千金を狙って捕鯨船に乗り込む若者たちがひしめく、富と欲望、希望と絶望、活気に満ちた街だ。
だれが最初に言い出
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