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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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(どのようにして?)
「どのような手を使ってもです」

 青銅の鏡から昏く冷たい光が放たれる。月の光にしては明るく、影の色にしては暗すぎるそれが、じっとりとトミコの双眸に吸い込まれた。

「腰元、酒をもて」

 ヨシマサが上機嫌で命じる。
 彼は自分を虚仮にした姦夫姦婦が近いうちにたがいを裏切り、憎しみ合うと鏡より教えられ、満悦至極で酒を味わい始めた。

「それがしにも、酒を」

 ギジンも血走った目で酒を飲んだ。近い将来、応仁なる元号に変じたその時には、かならずやこの裏切り者の毒女の首を……。と鏡に誓って大杯を干していた。

「わたくしも久しぶりに少しいただきましょう」

 トミコも小さな器を持ってこさせると、そっと飲み干した。
 やや子さえ生まれてしまえばこちらのもの。管領や帝。細川様や山名様の後見を得て早く生まれた子を将軍職に就けてしまおう――。
 三者三様が想いを浮かべていたその時、置かれていた照骨鏡がかん高い音をたてて真っ二つに割れた。
 三人がはっと息を飲んで見ると鏡はその内側より青い光を立ち昇らせ空に吸い込まれた。そして三人が気づいた時には鏡は、秦代より伝わり邪教立川流の呪具もまた煙のように消えてしまっていた。





 妖月に映し出されていた物語はそこで終わった。

「……ヨシマサ、トミコ、ギジン、ヨシミ――。足利義政とその弟の義尋に日野富子、応仁の乱の原因になった人たちだな。今のお話はその前日譚といったところか」
「ご名答でございます。さて翌年八代将軍義政公と富子様に玉のようなお世継ぎがお生まれになり、義尚(よしひさ)と名づけられました。さらにその翌年。なんと足利義尋あらため義視(よしみ)様は義政様の手の者に襲われたのです。しかし予言の甲斐あって刺客の手を逃れ、先の管領、細川勝元の屋敷に逃れました――」

 我が子である義尚を将軍職に就かせたいと熱望する富子は有力大名である山名宗全に接近し、義視が将軍になるのを阻止しようと暗殺までくわだてた。
 やがて義視の後見人である勝元と義尚を押す宗全の対立は激化し、勝元派と宗全派。東軍と西軍にわかれて京の町で真正面から衝突。
 これが京を荒野へと変じさせた十年の大乱の、世にいう応仁・文明の乱の始まりだ。

「うん、なかなか凝った見世物だった。さてお代を払いたいところだが、この美しい堂宇や庭園といい、拝観料は一万円でも安いくらいだから出したいところだが、あいにく仕事帰りでたいした持ち合わせがない。家まで取りに来るか?」
「一万円でも安いとは太っ腹だね、お兄さん。でもお金はいらないよ、お代は陰陽師。あんたの生き肝さ!」

 先ほどまでの芝居がかった重々しい声から一転。少年とも少女ともつかぬ快活な声色が月から響く。
 オオーン!

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