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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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の光景は消え、かわりに能の恵比寿の面が映る。
(さぁさぁ、なんとするヨシマサ。この姦夫姦婦めらをどう裁く?)
青銅の鏡から昏く冷たい光が放たれる。月の光にしては明るく、影の色にしては暗すぎるそれが、じっとりとヨシマサの双眸に吸い込まれる。
じっと鏡をのぞき込んでいたヨシマサがなにごともなかったかのように照骨鏡を床にもどした。
「良き趣向であったぞギジン。近う寄れ」
かしこまって近づいたギジンに耳元でささやきかける。
「ふふふ、そのほうらの戯れを見てすっかり楽しんでしまい、余が肝心の所用を忘れるところであった」
「は? 御用と言いますと?」
ギジンはなにごともなく語りかけてくる兄の様子に拍子抜けして問うた。毒を盛られたかのように苦しむでもなく、剣で斬られたように倒れるでもない。古来恐怖の対象であった立川流の呪具といえど、しょせんは迷信だったのか。風流狂いの兄一人どうすることもできぬとは――。
「うむ。トミコとはもうすでにじゅぶんに話し尽くしたことなのだが――。余とトミコには子が授からぬ。そこで余は隠居し、弟であるその方を次代将軍に指名することにした。さよう心せよ」
「なっ!?」
「来たる師走には還俗し、名もギジンからヨシミと改め精進するがよい」
唖然とするギジンは陪席のトミコをねめつける。なぜこのことを教えてくれなかったのか? 将軍の位をゆずろうとする、この『心優しい兄上』を殺させようとは――。
「さぁ、次はおぬしの番ぞ。照骨鏡をのぞくがよい」
感情の見えぬ、おっとりとした表情で大杯を口にし、鏡をギジンにまわすよう腰元に命じる。
「それがしが九代将軍に……」
呆然としているギジンの目の前に照骨鏡がはこばれる。無防備にそれをのぞきこんだ瞬間、鏡面が紅色に輝いた。
燃え盛る炎。人馬より流れるおびただしい血。飛び交う火箭。血に濡れた刃。返り血をあびて夕陽に照らされる陣羽織――。
「うぬ、これはいったい……」
(ギジン。いや、ヨシミよ)
冷笑をふくんだ声が銅鏡から発せられる。
「む、何者だっ」
(さわぐでない、それがしは、汝だ。いま一人のおぬし、未来のおぬしだ)
「未来、とな……」
ゆらいだ鏡面に剃髪をしていない、武者姿のおのれが浮かび上がる。
「その姿は……」
(おどろくことではないぞ、今のそれがしは帝や管領殿の後ろ盾を得ておる)
「しかし、その姿は、戦装束とはなにごと……」
(あれなる女、トミコめが南朝の残党をあつめて東国で兵を挙げたのだ。それゆえの戦装束よ)
「なんと、しかし、しかし……、しかしトミコ殿は御所様を捨ててそれがしを選ぶと約束して……」
(まどわされるなヨシミ。殷の妲己、唐の楊貴妃。いつの世にも大乱の因は
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