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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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…」
「よいよいギジン、面を上げい。今宵は無礼講じゃ、立場を忘れただの兄弟にもどろうぞ。さぁ、近うよれ、ともに良き酒、良き月を愛でようぞ。……うん? なんじゃその箱は?」
 御所様と呼ばれている面長の男はひれ伏して詫びを入れるギジンの横に一抱えほどの桐箱があることに気づく。かなり年季の入った物で、紫のひもで十文字にかたく結ばれていた。

「ははっ、今宵の宴の座興にと比叡の倉を探らせて持って参らせた品でござる。秦代より伝わるまじないの品だとか」

 面を上げたギジンは見事に剃髪していた。面長の御所様とは対照的に端正で彫りの深い顔立ちをしていた。

「ほう! 秦の時代より伝わるまじわいの……。余のために比叡の倉を、とな」

 唐様を好む御所様は感じ入ったようで、機嫌良く大杯を口にはこぶと腰元に命じて目の前に持ってこさせた。
 ギジンはそっと陪席に瞳を流すと、そこにいるトミコと目が合った。ギジンの目の奥は炎のように赤くたぎり、トミコの目は月よりも青く凍っていた。
 そして二人はかすかにうなずき合う。
 そのようなやりとりも知らずに御所様は固く結ばれたひもをほどき、ふたに記された文字を月光にすかして見る。

「ふうむ、この箱は康暦……。今から九十年も前の物か。骨を、照らす?」
「それは照骨鏡と読みまする。ささ、まずはその品をご覧くだされませ。お気に召しませばこのギジン、欣快至極」

 そう言うとあらためて両手をつき頭を下げる。

「どれ……」

 箱の中に手を入れ、静かに中の物を取り出す。琥珀色とも飴色とも象牙色ともつかない微妙な色合いをした半球状の物体が姿をあらわす。
 半球の裏側が一瞬、輝いた。鏡だ。
 半球状のなにかに青銅の鏡がはめ込まれている。

「ほうぅ、これは精緻な……。ふむ……、おう、見事な作りじゃ……」

 御所様は照骨鏡なる奇妙な鏡に顔を近づけ、とり憑かれたようにためすがめつ観賞を続ける。
その様子を見てギジンは得たり、とばかりの笑みを浮かべ、陪席の貴女も忍び笑いをこらえていた。

「む、ここになにやら刻まれておるのう……。なになに……、立川流……、見蓮……、人間の髑髏……、照骨鏡に念を入れる……、だと?」

 ぎくり、ギジンとトミコの表情がこわばる。

「大治五年だと……、崇徳帝の御世か。ははは、秦の時代の鏡が三百年前に細工され九十年前の箱に納められる。いささか無理があるのではないか、ギジンよ。戯れもたいがいにいたせ」
「では御所様。ひとつお座興にその鏡に今宵の望月の光を映しこみ、ご自身の姿をごろうじてはいかがでしょう」
「うん?」
「その照骨鏡。その名の通り生身を透かし骨をも見通せるまじない鏡なのですが、望月の夜にはその魔力いよいよ高まり、映りし者の未来がありありと浮か
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