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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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。思わずため息がもれた。

 ふふふ……

「!?」

 どこからか忍び笑いが聞こえた。
 すぐに見鬼を凝らして周囲にさぐりを入れるが、判然としない。

 ふふふ……

 笑い声は男のようでもあったし、女の声のようでもあった。死ぬ間際の老人のそれのようにも聞こえ、幼児の無邪気な笑い声にも聞こえた。
 右から、左から、後ろから、前から、上から、下から――。
 笑い声が延々と響く。

「皎如飛鏡臨丹闕皎として飛鏡の丹闕に臨むがごとし――。飛鏡とは皓々たる望月のまたの名でございます」

 こんどは嫣然たる女の声が上のほうからした。
 月だ。声は月から発せられている。
 月が迫っていた。ありえないほどの大きさの月に老若男女の顔が浮かんでは消えている。それはまるで夜空にかかった銀幕。スクリーンの場面のように人々の顔が映し出されていた。

「時は昔、寛正五年は長月十三夜。高倉御所にてもよおされた月下の宴の夜も、ちょうどこのような飛鏡のごとき見事な満月の夜でございました……」
 仰々しく芝居がかった口調でそのような前置きをした妖月は物語を話し始めた。
 あやしき月の表に三人の男女の姿が浮かび上がる――。





 寛正五年。
 京を騒がした畠山一族の内紛が一段落したころ、高倉御所にて月見の宴がもよおされようとしていた。
 宴といっても参加者は三名のみのごくごく内輪のもの。
 中庭に特別にしつらえさせた二十畳ほどの御見台。月の光をぞんぶんに愛でるため、かがり火は禁じたうす暗き場所に二人の男女が座っていた。

「いささか遅すぎませぬか。ギジン殿はご自分を御所様よりも偉いとでもお思いか」

 陪席に座っている女から焦れた声が発せられた。
 竜胆の打掛に千鳥の小袖をまとった、いかにも高貴そうな二十歳前後の女性がけわしい表情を浮かべている。もともときつめの顔立ちが、いら立ちのためさらに峻烈なものになっていた。

「ほほほ、そう怒るなトミコ。あれは昔から約束の刻限というものを守ったことのない男。短気は損気ぞ」

 上座にいる面長の男はおっとりと応えると朱塗りの大杯をぐい、と前につきだした。
 すかさず腰元が近づき酒をそそぐ。
 腰元は青磁の皿に盛られた茱萸(ぐみ)の実を一つつまんで大杯に落とす。唐様の月見酒だ。

「遥知兄弟登高処、遍挿茱萸少一人。ほほほ、唐様よのう。余は満足じゃ」

 小さな果実を酒とともに飲みこむと酒の甘さと果実の酸味が口中に広がっていく。いよいよ満悦の表情がにじむ。
 するとそこに正座して上り込んで来る者があった。ギジンだ。

「せっかくの兄上、いや御所様のお招きに預かりましたが、遅参してしまいまことにもうしわけございません。このギジン汗顔のいたりでございます…
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