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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
ある夜のふたり〜月語り〜
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った時、音を立てて輿が割れた。
 例の巨大な手に牽かれていた豪勢な輿だ。
 動的霊災のくせして貴人が乗るような輿を使うとは。どんなやつが乗っているのかと見れば、しぶみのある緑色をした束帯姿で垂纓(すいえい)の冠をかぶり手に笏を持っている。なるほど、たしかになりは高貴な身分の人のものだった。
 だがその姿は異様としかいいようのないものだ。三メートルほどの巨躯に牛のような顔と牛のような角、束帯から出た手足は獣毛におおわれている。
 目は爛々と輝き、鼻からは蒸気のような白煙が吹き出し、全身から放出される気が時たま雷火のように爆ぜ光る。

(あの緑色の束帯はまるで帝のみが使用をゆるされた?塵袍(きくじんのほう)のようじゃないか。化け物のくせになんと不敬な……)

 秋芳がそのような考えをいだいた瞬間、牛頭の異形が激しく吠えた。

「この無礼者が、頭が高いっ!」

 咆哮に込められた霊気が秋芳の身を打つ。今まで相手にしていた妖怪達とはけた違いの気、異なる霊相。
 鬼の打撃を防いだ五芒星の結界を軽々とすり抜け、身心を穿った。

「うぐっ!?」

 視界がぐらつき目の前が暗くなる。ひどい貧血になった時のように全身から力が抜けていく。

(これは……、呪詛か! しかしなんと強力な。これほどまでに凄まじい呪は始めてだ!)

 いそぎ解呪を施しつつ相手をしっかりと見鬼る。
 強い。
 とてつもなく、強い。
 こいつはちがう。
 先ほどまで相手をしていた有象無象の動的霊災とはちがう。
 荒々しくも神々しい、尋常ならざる霊気に畏怖すらおぼえる。こいつは――。

「牛頭天王……!」

 牛頭天王。八坂神社に祀られる、素戔嗚尊や薬師如来を始めとする多種多様な神仏が習合された謎多き神。
 相手は神。それも多くの神格を有し、畏れ多くも皇祖神につらなる存在。
 一瞬、わずか一瞬だが秋芳の心に恐怖が生じ、その脳裏に「逃走」の二文字が浮かんだ。圧倒的な実力差。逆立ちしても勝てない相手。だが後ろを見せれば、その瞬間殺される。打つ手なし。万事休す。
 どうする?
 逡巡する前に身体が動いた。闘争本能に従い、全力で戦う。相手に立ち向かう。
 いつでも逃げれば生きられるというものではない、突き進んだほうが生きのびられる場合もある。
 戦闘とはそういうものだ。秋芳は経験でそれを知っていた。それゆえ戦うことを選んだ。

「我咆哮金城穿孔、鉄壁崩壊。吼っ!」

 我が咆哮は金城を穿ち、鉄壁を崩す。
 おのれ自身にかけた甲種言霊。自己催眠によって強化された純然たる霊気の波動が牛頭天王に放たれるも、微動だにしない。

「人の子風情が、図に乗るなッ!」

 声とともに口から吐き出た猛気は周囲の霊気のバランスを急速に乱し、陰の気
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