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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
万聖節前夜祭 5
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という。正法眼蔵という仏教書に記された説話だ。

「――この袈裟の部分を真言に置き換えてもいい、たとえ意味もわからずにいたずらに唱えても仏の加護は得られる。少なくとも罰があたるようなことはない。もっともこれは素人レベルの話で、俺たちのような呪術師ならばやはり意味を理解して唱えるべきだが」
「……その話と今の状況と、なにか関係あるわけ?」
「いや、特に関係はない」
「もっと急いで! すぐ来て! はやく来て! 一〇分で来てちょうだいっ、急急如律令(オーダー)!」

 眼下の街灯が途絶え、かわりに広大な緑地が広がる。明治神宮に隣接する代々木公園だ。

「ようし、五分でそっちに行ってやる!」

 地に降りるやその場で奇妙なステップを、呪術的な踏み切りをおこなう。帝式の禹歩だ。
 ここまで近づけば都庁までそれこそ一瞬で移動できる。多少の危険をおかしてもショートカットするべく、荒れ狂う霊脈に身を投じた。
 物体を透過し、霊脈に入る瞬間の独特の感触。水よりもっと濃いなにかの中に沈んでいくようなものだが、水なら自分の体に染みこんでくるような感覚はない。
 そのような感覚のあと、すさまじい衝撃が走り身体が流された。
 さながら竜巻に巻き込まれた木の葉か渦潮に翻弄される小船か。霊気の奔流に五体がバラバラになりそうになる。

「阿!」

 気合いを入れ、素早く精神を統一。全身に気を廻らせ、身心を霊的に浄化、呪的干渉の影響を極力排除する。
 密教にある阿字観という瞑想法の一種だ。
 さらに進行方向へむかって垂直気味の姿勢をとると、身体にかかる抵抗がいくぶんやわらぎ楽になった。
 空気抵抗や水圧があるわけでもないし、地上と同じ物理法則が支配しているわけではないが、ようは気の持ちようだ。
 それにより流される速度が少しは低下した。
 はるか前方に真っ赤な炎が煌めいているのが見える。うつし世への出口であり、その先で火界咒が渦巻いているのだ。あそこまで流されてはいけない。寸前で霊脈から離脱し、地上に出なければ。
 速度の落ちた秋芳の真横を毛むくじゃらの大猿が泣き叫びながら流れ過ぎていく。
 大元帥法に捕われて火界咒へと送られる動的霊災だろう。ドップラー効果で叫び声が妙な音に変わる。だが火界咒へと突っ込む前に、その大猿は突如出現した炎の塊に飲み込まれた。

「ケェェェ――――ッ」

 耳をつんざく怪鳥音。炎の塊かと思われたそれは巨大な鶏だった。その身からは火気があふれ、はるか先で燃え盛る火界咒と同質の呪力をまとっていた。

「……たしか鶏は不動明王の神使(しんし)だったな。火界咒によって生じた即席の使役式ってわけか」

 神使とは神仏の御使いや眷属のことだ。毘沙門天が虎やムカデを、弁財天が蛇を神使にしているのはわりかし有名だ
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