シーホーク騒乱 1
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、非殺傷系の攻性呪文でも時間をかけて魔力を練り上げ、三節以上の詠唱節数をかけて呪文を唱え、威力を最大限に高めればじゅうぶんな攻撃力を得る。
あたり所が悪ければ致命的だ。高圧電流がウェルニッケの脳神経を焼き切った。
脳死――魔術によって他者の心を壊し、廃人同然にした男は、皮肉にも自身が魔術によって廃人となった。
目の前で人が害されたというのに女たちは逃げもせずに茫洋とたたずむのみ。
口封じするのは簡単だ。唾棄すべき輩とはいえ同志をいとも簡単に殺めたカルサコフにとっては造作もないこと。
だが彼はそうしなかった。
ウェルニッケの言うとおり、一週間後におこなう粛正≠ノよってこの街の人々の多くが死ぬことになるだろう。だがカルサコフの目的はあくまで任務の遂行であって殺害ではない。無意味に殺す気にはならなかった。
ひとりひとり丹念に白魔術による精神治療をほどこしたあと、偽りの記憶を植えつけて家に帰らせた。後遺症が残る可能性はあるが、さすがにそこまでは面倒を見切れない。
続いてまだ息だけはあるウェルニッケだった肉の塊の処理にかかる。
「《貪るものよ・暗き砂漠より・来たりて啖え》」
カルサコフの唱えた召喚呪文に応じて異界よりなにかが現れる。
人に似た四肢を持ってはいるが、前かがみになった姿勢や顔つきは犬めいており、肌は赤と緑を混ぜたような不気味な色をしている。手には鋭い鉤爪が生え、脚には蹄があった。
グール。
人の骸を好んで食べることから食屍鬼とも呼ばれる怪物だ。
「こいつを食え」
「GISYAAA……!」
脳死という極めて新鮮な状態の獲物に歓喜のよだれを垂らして食らいつく。
がぶり、ぞぶり、ごそり、くちゃり、ぞぞり、こつり、じゅるる、くちゃ、ぱく、ごぼ、ばり、べき、ぼこ、ぞぼぼ、ぺちゃ、ばり、ぼり、ぺき、ぱき、ぽき、ぺきん、ごぶり――。
食屍鬼の食欲は旺盛だ。肉のひとつまみ、骨のひとかけら、血のひとしずくも残さずにたいらげるのに、さして時間はかからないだろう。
同志だったものが処理されていくのを見ながら、カルサコフはこれからのことに思いを巡らせる。
一週間後、フェジテとシーホークの二か所で同時に起こす破壊活動。
任務とはいえおなじ魔術師の卵たちを弑することに抵抗があったため、この腐敗した街の粛清を任されたことは幸運だ。
せめてこの協力者がもう少しましな人間だったら良かったのだが、済んでしまったことはどうしようもない。ことを終えたら包み隠さず報告し、沙汰を受けるだけだ。
たとへ死をたまわることになっても悔いはない。組織によって処断された死体は魔術の実験に利用され、魔術のために貢献できるからだ。
カルサコフの所属する組織――その名を天の智慧研究会という。
アルザーノ帝
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