シーホーク騒乱 1
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いかにも観光客といった風情をよそおい、くまなく観察する。
「ブルジョアジー……」
いますぐにでも攻性魔術を連発して拝金主義者どもを粛正したくなる欲求を抑え、あやしまれないうちにその場を後にして手配されたホテルへむかった。
「なんだ、これは……!」
たったいま偵察してきた富裕地区。そこに軒を連ねる豪邸に勝るとも劣らないような豪華なリゾートホテルに眉をしかめる。
しかも用意された部屋は最上階にあるもっとも高級なロイヤルスイートルームだった。
質実剛健を良しとするカルサコフにはまことにもって不愉快極まりない宿の選択にいら立ちを覚えつつ部屋に入る。
そこでは床のそこかしこに酒瓶がころがり、小太りの中年男性が薄着姿の若い女性たちと戯れていた。
「おお、遅かったじゃないか同志カルサコフ。悪いが先に楽しませてもらってるぜ。フィヒヒヒ!」
下卑た笑い声をあげて女の白い乳房に脂ぎった顔をうずめる。
「これはどういうことだ、同志ウェルニッケ! 部外者を中に――ッ!?」
女たちの目は虚ろで、表情に乏しく、意思や知性というものが感じられない。
「きさま、壊したな」
「フィヒヒヒヒ! ご名答!」
【マインド・ブレイク】
対象の思考を破壊し、強制的に朦朧状態にする精神攻撃呪文。精神操作系の白魔術のなかではもっとも高度で危険とされ、相手を廃人にしてしまうこともある。
ウェルニッケと呼ばれた小太りはこの呪文をもちいて女たちを意のままに操っているのだ。
「こいつらは今夜のことなんて覚えちゃいないのさ、だからなにをしてもいいってわけだ。いや、今夜だけじゃなくてもうずっとなにも覚えられないかもしれないな。フィーヒヒヒ!」
怒りと軽蔑にカルサコフの頭の芯が研ぎ澄まされていく。彼は怒りで頭に血が上るのではなく、逆に血の気が引くタイプの人間だった。
「ほら、遠慮しないでおまえもどうだ。赤毛が好きか? 黒髪か? 金髪はどうだ。酒だってあるぜ、イクラやキャビアもだ。ハラショー! どうせ一週間後にはみんな殺しちまうんだ、今のうちに楽しめよ、ズドーラヴァ!」
ウェルニッケは女におおいかぶさると酒臭い息を吐きだして腰を振りはじめる。
「……天の智慧研究会に下品な男は不要だ――《雷精の紫電よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ・焼き尽くせ・消し炭と化せ》」
「ん? ――ギャッ!?」
カルサコフは両手を前に出してウェルニッケの頭をはさみこむ。両のこめかみに指圧のように指先を押し当てた状態で【ショック・ボルト】を放った。
【ショック・ボルト】は魔術学院に入学した生徒が一番はじめに習う初等の汎用呪文で、微弱な電気の力線を飛ばして対象を電気ショックで麻痺させて行動不能にする殺傷力の低い呪文だが
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