巻ノ百十二 熊本その三
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「その時は」
「右大臣様をお守りするのじゃ」
「そしてそこから」
「おそらく加藤殿はな」
彼はというと。
「島津家と内密に話をしておってな」
「右大臣様をですな」
「そのいざという時はな」
まさにというのだ。
「わかっておるな」
「はい」
「薩摩にじゃ」
即ち島津家の領地にというのだ。
「右大臣様をお連れして」
「そうして」
「お護りするのじゃ」
「わかりました」
「あの方は忠義を忘れてはおらん」
加藤、彼はというのだ。
「それを果たされる」
「その心意気はおありですな」
「うむ、だがまた言うが」
「その忠義はですな」
「旧主へのものじゃ」
このことは変わらないというのだ。
「それでのことじゃ」
「今ではない」
「加藤家も幕府の中にある」
そして彼の熊本藩もというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「今の公の目は幕府にある」
「そしてお家を護る為にも」
「そこは護る」
幕府への忠義はというのだ。
「内心どうであってもな」
「お家の為に」
「そうお考えじゃ、右大臣様をお助けするのもな」
「あくまで旧主へのもので」
「それ以上のものではない」
「そしてそのことを」
「茶々様はおわかりではない、だからな」
それ故にというのだ。
「間もなくな」
「加藤殿が亡くなられても」
「そうお考えじゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ」
「ではそうしたお考えでは」
「過ちを続けられる」
これまでの様にというのだ。
「天下のことが何もわかっておられぬのに天下人と思われている」
「そうした有様では」
「そうなるわ、しかも右大臣様はな」
「その茶々様を」
「止められぬ」
「大坂の主であられても」
「信玄様や謙信公はどうであった」
その彼等のこともだ、昌幸は話した。
「ご母堂に対して」
「はい、どちらの方も実に」
「孝行であられたな」
「太閤様もそうでしたし」
秀吉の母親思いは有名であった。
「大御所殿も」
「実にであられたな」
「母親思いの方でした」
「大名になればご母堂も大事にせねばじゃ」
まさにというのだ。
「何も立たぬ」
「左様ですな」
「特に右大臣様はな」
「何でも儒教もよく学ばれているとか」
「儒教は孝の考えもある」
即ち親への孝行だ。
「それもな、だからな」
「尚更ですな」
「そのお気持ちが強い」
「だからですな」
「右大臣様が主でもじゃ」
大坂のだ、そうであってもというのだ。
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