ロクでなし魔術講師、買収される
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恵と力を得ることができれば、魔術を知ることができれば差別も偏見も一方的な殺戮も減少するのでは?」
「……あんたも魔導省の官僚にでもなるつもりかい?」
「は?」
「いや、なんでもない」
ちょうどデザートがはこばれてきたので会話は一時中断。スコーンにクロテッドクリームとジャムが添えられている甘味は、例によってほとんどがグレンの胃袋におさまることになる。
「いささか話がそれましたが、学院に入る前に少しでも実践的な魔術に触れたいという欲求に駆られまして、どうかひとつご指導のほどよろしくお願いいたします」
「あー、いやでも魔術ってのは基本的に国家機密でね。個人的に教えるのは色々とヤバいんだよなー」
「もちろん、ただでとは言いません」
「ふっ、俺も安く見られたものだな。金でなびくようなグレンさんじゃないぜ」
秋芳はふところから皮袋を取り出すと、紐を解いて逆さにする。鈍色の輝きを放つ無数の塊がテーブルの上に広がった。
銀貨だ。
「おおっ……」
めったにお目にすることのできない光景にグレンの目が見開いた。
庶民が普通に生活するぶんにはセルト銅貨だけでじゅうぶんこと足りる。
銀貨は少し贅沢な買い物をするときくらいにしか使わない。
庶民にとっては大金、金持ちにとっては小銭。銀貨とはそのようなものだ。
現代日本人の感覚的には万札の束を見たに等しい。
「一〇〇枚あります」
「ひゃ、ひゃくまいも……」
「どうです、これで俺に魔術を教えてくれませんか」
「ぐぬぬ……」
グレンの顔が懊悩で歪む。
黙っていればわかりっこない。
殺傷能力の低い汎用の初等呪文をいくつか教えるくらいなら安全で簡単だ。
これだけあればしばらくは豪奢な暮らしを満喫できることだろう。
しかし――。
だがしかし――。
「い、いやいやいや! そいつを受け取ることはできないな。俺は自分のポリシーを曲げることは絶対にしない主義なんだ」
「それなら銀貨を……」
「一枚ずつ増やして気を引くつもりか? ふふん、無駄だぜ。どんな大金を積もうが、俺は金なんかじゃ動かされない。動かされない! 動かされない! 絶対に!!」
「減らそう」
「え!?」
指先で銀貨をつまむと皮袋にもどす。
「もう一枚」
「えっ? えっ!? えええっ!?!?」
「さらにもう一枚。さあどうしました、時間が経つほど報酬は減っていきますよ」
「なにそれこわい。意味わかんない!」
もう一枚、もう一枚、もう一枚――。
「あ……」
「もう一枚」
「ああっ!」
「もう一枚、もう一枚!」
「あああっ!」
「めんどうだ、もう一〇枚ずつ減らしていく!」
「わーっ!! わかった、魔術を教えてやるよッ!! ……ハッ!
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