ロクでなし魔術講師、買収される
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とか、戦争のおかげで人類は進歩できるなどとは言いません。俺の祖国はもう三四半世紀近く戦争をしていませんが、呪術もそれ以外の技術も絶えず進歩しています」
いささか嘘がまじる。呪術に関しては原則として霊災修祓か、呪術がらみの犯罪に対してのみ使用が認められるという陰陽法の縛りにより、他分野への転用ができず思うように研究を進められないというのが現状だ。
だが嘘≠アそ呪術の真髄であり、秋芳は呪術師だ。さらに舌を動かす。
「かつては戦争の道具として使われていた呪術が、平和利用されているのです。この国の魔術も使い方次第でいくらでも人々の役に立つことになるのでは」
「ふん、力は使う人次第だの、剣が人を殺すんじゃない、人が人を殺すんだとかいうありきたりな理屈か?」
「機械あれば必ず機事あり、機事あれば必ず機心あり」
「……なんの呪文だ、そりゃ」
中国の古典『荘子』に出てくる言葉。
あるとき孔子とその一行が井戸で水を汲んでいる老人に会った。
老人は井戸から水を汲むのに縄につけた桶を井戸に下ろして引っぱっていたので、孔子の弟子のひとりが滑車という物があるのを知らないのかと訊くと、こう答えた。
「もちろん知っている。力をほとんど使わずに重い水を上げることができる機械だろう」
「それをご存じなのになぜお使いにならないのですか?」
「滑車を直す術を知らないからだ。機械は便利な道具だが、壊れてしまってはどうすることもできない」
対処できない事態、機事が起こり。機械に頼る心、機心がいちど宿ってしまうと、もう機械のなかった時代にはもどることができない。
こうして人は機械無しでは生きられなくなり、人間本来の営みさえ忘れてしまう――。
「ずいぶんと含蓄のある話だが、それがどうした」
「あなたの言うとおりに『魔術』がロクでもない技術だったとします。しかし現実にそれが世に浸透している以上、いくら忌み嫌っていても詮の無いこと。となれば考えることはふたつ。ひとつは魔術と魔術師をこの世から抹消すること。もうひとつは魔術が人に害をあたえないようにすること。前者と後者、どちらがより現実的かはわかりますよね」
「…………」
軽い既視感。グレンの脳裏に教え子である金髪の少女の言葉がよぎる。
『――それがすでに在る以上、それが無いことを願うのは現実的ではありません。なら、私達は考えないといけないんです。どうしたら魔術が人に害を与えないようにするか――』
(盲目のままに魔術を忌避するより、知性をもって正しく魔術を制する――全ての魔術師がそうなるように働きかける――か――)
「まず国家が独占し、それを戦争にしか利用しないというのがおかしい。魔術という技術ではなく、それをあつかう制度に問題があるのです。すべての人が平等に知
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