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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
万聖節前夜祭 1
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「対物理用の摩利支天呪法か。本来なら呪術にしか効果を発揮しない回避の術を、術式を組み替えて応用を利かすとは……。うん、実に見事な手腕だった。さすがは京子だ、俺のメインヒロインだ」

 秋芳はあいかわらず独り言を漏らしつつ、簀子縁に寝そべった桃矢の全身に指を這わせていた。
 桃矢は午前中から夕方までずっと稽古していたので、上は頭頂の神庭穴から下は足裏の湧泉穴まで、疲労回復に効果のある点穴を施してやっているのだ。

「!?」

 恍惚の表情を浮かべて秋芳の指技を受ける桃矢だったが、急に身震いすると怯えたような面差しになった。

「……あのう、秋芳先生」
「なんだ」
「なんだか、ものすごい邪悪な視線を感じるんですけど……」

 桃矢の言う視線の主とは誰あろう陰陽塾男子寮の寮母、富士野真子だろう。
 今日、桃矢が来てからひんぱんに、こちらにむけ邪な眼差しを投射してきているのは秋芳も感知している。

「気にするな。あれは男子寮に巣くう鬼だ」
「お、鬼ですか!?」
「そう、腐った鬼だ。だが実害はないから、安心しろ」
「は、は、はい……」
「秋芳〜、餅乾(クッキー)ができたよ〜」

 笑狸が盆の上に大量の焼き菓子を盛って来た。

「おう、では食べるか」

 男子寮の庭はかなり空いている。なので秋芳は寮母である富士野眞子に了承を得たうえで薬草。ハーブの類を植えて育て、それらを入れた菓子や茶をこしらえ、たしなんでいた。
 オリーブ、オレガノ、キャラウェイ、クミン、シナモン、バーベナ、バジル、ミント……。
 それら薬草のふくまれた焼き菓子は滋味に富み、運動後の小腹を満たすにはちょうど良いあんばいだ。桃矢は出された甘味をじゅうぶんに堪能し、満ち足りた気分で帰路についた。
 かなり長いこと、腐った視線を肌に感じながら……。





「はい、お水」
「あ、ありがとう京子」
「どういたしまして、龍鳳院宮寺さん」
「いやはや、さっきは恥ずかしいところを見せてしまったね」
 東京エターナルランド内にあるいくつかの休憩所。通りに面したそこのベンチに光輝を休ませているところだ。

「足を滑らせて転倒さえしなければ、あのような破落戸の一人や二人。柔道初段、チェス四段、オセロ五段、合わせて十段のツワモノであるぼくの華麗な格闘術で黙らせてやったものを……」
「でも、相手は六人で銃も持っていましたよ」
「なに、銃弾なんてあたらなければどうということはないのさ。フェンシングでつちかったぼくの反射神経をもってすれば、射線上から避けるのは造作もない」
「そうですか」
「そうだとも。もし次に同じことがあったら――」

 あんな暗闇で乱闘して、あたしにあたったらどうするのよ? そうは思ったが口には出さない京子だった。
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