ロクでなしども、出会う
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だ。
知識を得る、すなわち魔術を習得する修行のひとつだ。
この世界についてのことを少しでも多く知るよう、秋芳は様々な仕事に手を出した。
秋芳は、働いて、働いて、働きまくった。
そして学んだ。
一般常識や基礎教養、神話や伝説、歴史や地理、芸術や文化――。
この世界のことはなにも知らない。生まれたばかりの赤子にひとしいほど無知なのだから、必死になって学んだ。
陰陽師にとって知識の有無、多寡は命の次に大事なことなので、それはもう寝る間も惜しんで学んだ。
そう、文字通り寝ている間にも学習した。
出神の法をもちいたのだ。
出神の法。いわゆる幽体離脱だ。
人の魂は魂と魄、ふたつの霊体からなり、魂は精神を支える気にして陽に属す陽神。魄は肉体を支える気にして陰に属す陰神。このふたつを合せて魂魄と呼び、これこそが魂である。
陽神のみの幽体離脱では意識はあっても肉体がないため物をつかんだり人に触れたりはできず、陰神のみでは疑似的な肉体こそあるものの本人の意識がなく、ただの肉人形に等しい。
陰と陽。魂と魄を合わせて体外に出すことではじめて半体半霊の分身を作り出すことができる。
他の陰陽術同様に使用不可能にならなかったのは僥倖だった。見鬼とおなじく自身の気を直接もちいるような術はある程度は再現可能。融通が利くらしい。
あるいは式神作成がコール・ファミリアになったように、このような魔術がこの世界にも存在しているからだろうか――。
もっともこれも不完全な発現であった。
まず脆い。
わずかな衝撃で霧散してしまうし、駆けたり殴ったりといった激しい運動もできない。
少しでも大きい、重いものを持ち上げようとするとすり抜けてしまう。
具現化できる気の総量が薄いのだ。
また本人の身体からあまり離れることもできない、せいぜい目の届く範囲にしか飛ばせない。
元いた世界であれば簡易式の強化版として戦闘やおとりにつかえたが、これでは心もとない。
それでも本を読む程度のことはできる。だから秋芳は肉体が睡眠をとっている間にも書物を漁り、知識を得た。
寝ている間にも勉強ができる。まことに便利な術だが、欠点と言えばきちんと寝た気がしないことだろうか。とうぜん夢を観ることもない。
酒や女とおなじくらい惰眠を貪ることを好む秋芳にとってはあまり好ましくない術ではあるが、いまは知識欲のほうが勝っていた。
ナーブレス邸厨房。
「いま帰りました、料理長」
「おお、おかえり。シーホークはどうだった?」
「潮風が気持ち良かったですよ」
「そうだろう、そうだろう」
「はじめてフェジテの外に出ましたが、このあたりの街道は立派ですね。きちんと舗装されていて馬車がほとんど揺れなかった」
「とうぜんさ、なに
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