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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
巫之御子 3
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、自然――。
 けれどもどこか神聖な感じもする。なにもしていないにもかかわらず、桃矢は自分がひどく不作法なことをしている気がして軽い罪の意識にかられた。

 神聖不可侵な領域に侵入し、静寂をかき乱しているかのような……。
「僕はだれかに無理やり連れてこられたんだ……、べつに好き好んでこんな場所に来たんじゃない……」 

 異様な静寂がもたらす緊張に耐えられず、そう口にした時、それは密やかに、水音ひとつ立てずに現れた。
 桃矢の目の前にあった水門の上にぬうっと黒いものが浮上したかと思うと、ゆっくりと空中にせり上がっていった。
 爪のある手と毛深い顔を持ち、黒雲に覆われた獣のような姿。身を覆う濡れた暗褐色の毛から水滴をぽたぽたと滴らせている。
 大きい。
 全体像は不明だが、ひと口で人など飲み込んでしまえるだろう。
それが首をめぐらせ、桃矢を真正面から見つめる。イヌ科の動物のような顔をしているが、その目には知性の光が宿っていた。
 桃矢は身動きができなかった。不動金縛りの術なのか、驚きのあまり動けないのか、桃矢自身にもわからなかった。それほどまでにそれの姿が異様だったからだ。
 昨夜のフェーズ3もどきの餓鬼たちとはちがう、正真正銘のフェーズ3。動的霊災。それもすでに霊的安定を得て久しい、年経たあやかし――。

「目ガ覚メタカ、花嫁ヨ」

 あやかしの口が大きく開き、真っ赤な舌がうごめいて、たどたどしい人語を発した。

「ぼ……、僕は花嫁じゃないです」

 桃矢はかろうじて言葉をしぼり出す。緊張のあまり、ひどくかすれている。

「オマエハ儂ガ見初メタ花嫁ダ。オマエノ儂ヲ見スエル眼。他ノ巫女タチノ誰ヨリモ真ッ直グデ、澄ンダ良イ目ヲシテイタ。気ニ入ッタゾ」

 たしかにプールでの修祓のさい、桃矢は他のだれよりも瘴気を凝視していた。

「だいたい僕は男です! 花嫁になんかなれません!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 しばしの沈思黙考。

「……コノサイ、男カ女カナド、些細ナコトダ。儂ノ妻ニナレ」
「些細なことじゃないっ!」
「衆道モ、マタ良シ」
「良くなーいっ! だいたいどうして霊災が花嫁なんて欲しがるんですか!?」
「サビシイカラダ」
「えっ?」

 その意外な応えに桃矢は絶句した。霊災が、こんな怪物が『さびしい』などと言うだなんて、想像もしていなかったからだ。

「儂ハサビシイ、長イコト独リデイスギタ。遠イ昔、人々ガ大地ヲ育ミ太陽ヤ空気、水ノ流レト共ニ生キテイタ頃ハヨク人ト交エタモノダ。日照リニ苦シム人々ヲ助ケ、感謝サレタコトモアル。ダガ最近デハ儂ノ姿ヲ見ルナリ、恐ロシイ呪術ヤ火ヲ吹ク棒デ傷ツケヨウトシテクル」
「……」
「モウ孤独ニハ耐エラレヌ
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