魔術の国の異邦人 3
[1/5]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
ウェンディ=ナーブレス。
不器用かつ少々どんくさく、肝心なところでドジを踏む――。
公爵家の令嬢を相手に面と向かってそのように評する人はいないが、実のところウェンディはドジっ娘だ。
召喚した悪魔(?)が謎の放心状態になってしまったため、少し間を空けて夜にでも様子を見ようと決めていたのだが、夕食後に観に行ったオペラの余韻に浸っているうちにその日は就寝。
次の日は商人ギルドの有力者を招いた晩餐会がいそがしく、自分が召喚した存在のことを思い出すこともなかった。
次の日も、その次の日も勉学や雑務に追われたり趣味に没頭しているうちにすっかり忘れてしまった。
彼女が地下室にいる被召喚者のことを思い出したのはミーアとの雑談中、 近ごろ帝都で流行している青少年向け小説について雑談している時だった。
「――そのツンデレ胸ぺったんの落ちこぼれ女の子が、使い魔として自分のパートナーを召喚する儀式で失敗してしまい、べつの世界から少年を召喚しちゃうんですよ」
「まぁ、悪魔や魔獣ではなく異世界から生身の人間を呼び出すだ、なん、て……」
「お嬢様?」
「あ」
「あ?」
「ああああ」
「ロトの血をひく勇者ですか?」
「ちがいますわ! あの地下室で呼び出したヘンテコな悪魔もどきのこと、わたくしとしたことがすっかり失念していましたわ」
「え? ええ〜!? あれからもう一週間も経っていますよ、平気なんですかぁ?」
「ミーア。あなた、彼に食事とか用意してあげたりはしていませんの?」
「していませんよ〜、そんなこと言われていませんし」
「あ、悪魔なら、悪魔ならなにも口にしなくても平気ですわ!」
人間が飲まず食わずで生き延びられる限界は三日間だと、一般にはいわれている。
口では悪魔と言うが、さすがにもう本物の悪魔だとは思っていない。大慌てで地下室へと急行する。
干からびて死んではいないかと危惧していたウェンディの目に映ったのは浴槽に浸かりながらリンゴをかじり、読書をする秋芳の姿だった。
「遅い!」
「んまぁッ!?」
「遅い。糧食を絶って弱らせて言うことを聞かせようとでも考えていたのかも知れないが、遅すぎだ。死んでしまったら元も子もないぞ」
「誇り高きナーブレス家の人間はそのような卑劣なことはいたしません! あなたのことをきれいさっぱり忘れてしまっていただけですわ」
「いやぁ、それもっとたちが悪いぞ」
「そんなことよりも、いったいどこからこんなにたくさん持ってきたんですの?」
なにもなかったはずの魔方陣の中には秋芳が浸かっている浴槽のほかにも大皿に盛られたパンやチーズ、葡萄酒の瓶。それに動物図鑑や植物図鑑などの百科事典類、旅行記や地図、偉人伝、歴史書、医学書、初歩の呪文書といった書物の類いが山と積まれていた。
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ