第八話 一瞬の油断
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班をその日の食事を作るという当番制だった。もちろん、そこには男性も女性も関係ない。
しかし生まれて此の方包丁を握ったことがない生徒がほとんどだったため、その食事は一言で言えば『悲惨』で、凰香ですら『これは本当に食事なのか?』と思ってしまったほどだ。
そんな悲惨な食事状況の中で、まともに食事を作れる生徒は重宝されるのは当然な話である。その中にいた凰香もその日の当番の生徒に頼まれることが多かった。だが『軍学校全員分』の量を作らねばならないので、その負担はかなり大きい。
凰香はそのことを全く気にしてはいなかったが、防空棲姫は簡単に頼んでくることが少し気に障ったらしく、「頭を下げて頼んできたら作ってあげる」という旨を凰香に言わせていた。防空棲姫曰く、「成績優秀、才色兼備の年下の少女に頭を下げないといけないほど屈辱的なことはないでしょ」とドS精神全開。その言葉通り彼女は屈辱に顔を歪ませる生徒を見てニタニタと愉悦に浸っていた。
その結果男性の生徒は敵が多くなってしまったが、女性の生徒からは何をどう勘違いしたのか「小動物みたい」と可愛がられ、結果的に凰香の味方となってくれた。
「料理を作らないといけませんけど、だからといって訓練の方が手抜きになるわけでもないんですけどね」
「なるほど。提督は料理だけではなく、成績も優秀だったと。提督は完璧な人なんですね」
「完璧なんかではありませんよ。私にだって欠点はいくつかあります」
凰香は使った調理器具を洗いながら初霜にそう言った。それと同時に凰香の頭の中にその欠点が思い浮かんでしまう。
「提督、お鍋から白い煙が噴き出してますよ」
凰香の頭の中に欠点が思い浮かんでいると、初霜がそう言ってくる。それと同時にまるで示し合わせるかのように『タイミングよく』タイマーが鳴った。
タイマーが鳴ると、休憩に入っていた三人が立ち上がり、厨房に入って食器を用意し始める。
「提督、遂にできたんですか?」
タイマーが鳴って完成した、ということを察した初霜がそう言ってくる。
凰香は三人が食器の準備を終えるのを確認すると、白い煙ーーーー湯気が噴き出す鍋の蓋を取った。
今回作ったのはグツグツと煮える茶色いルーとジャガイモやニンジン、鶏肉などの大きめの具材がゴロゴロとしているチキンカレーである。
「おぉ〜………」
机の上から鍋の中が見えたのか、初霜が感嘆するような声をもらす。それと同時に凰香の顔に湯気がぶつかり、スパイシーな香りが鼻をくすぐる。香りからして、完成と見てもいいだろう。
次に凰香はお玉を手に取り、それを鍋の中に入れて茶色いルーを纏ったジャガイモをすくう。そしてジャガイモに箸を突き刺した。抵抗なく箸が刺さることから火は十分に通っている。
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